- 相続税は原則 現金で一括納付がルール
- 払えないまま放置すると延滞税などのペナルティが発生する
- 対処法は「売却→延納→物納」の3つを順番に検討する
- しかし、延納や物納は申請のハードルが高く実際はほとんど選ばれていないため、早めに税理士に相談するのが良い
そもそも相続税は、亡くなった人(被相続人)から取得した遺産が基礎控除を超える場合に、申告と納税を行う必要があります。

また相続税の納税については、
- 期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内(相続税法 第27条)
- 納付は原則現金一括で納税
するものとされています。
この記事では、「相続税を納税したいが、納税するお金がない」といった場合、どうすればよいか、その対処法について税理士が解説します。
相続税は期限までに納税しないと、延滞税(原則年7.3%、特例基準割合+1%)などのペナルティが発生します。
期限内に納税を終えられるように、早い段階から選択肢や注意点を知っておくことが大切です。
目次【本ページの内容】
1. そもそも相続税が払えない状況とは
そもそも相続税が納税できないような状況は、どのようなときに起こってしまうのでしょうか。
例えば、遺産のほとんどが不動産で、相続税が多額になってしまった場合です。
その他に、引き継いだ現預金や受け取った死亡保険金があったとしても、納税すべき相続税に不足するような状況が考えられます。
相続人がもともと持っていた現預金で相続税を納税できれば問題ないのですが、それでも納税資金が不足してしまうようなことが考えられます。
2. 相続税が払えないときの3つの選択肢と検討の順番
相続税が納税できるほどの資金がない場合の選択肢は、
- 財産を売却し現金化する
- 銀行から納税資金の融資を受ける(借入れする)
- 延納や物納といった国が認めている制度を利用する
といった方法が考えられます。

ここで注意したいのが、銀行から相続税の納税資金の融資を受けるという選択肢です。
実際に、相続税の納税資金を目的とする融資商品を用意している銀行はありますので、銀行からの相続税の納税資金の融資を受けることを検討する場合には、早めに銀行に相談をしておく必要があります。
不動産を担保に銀行から融資を受けるなど、銀行借入れできる場合があります。
ただ、銀行借入れはゼロではありませんが、一般的な事例としては正直そんなに多くはないように思います。
また、延納や物納も国が認めている制度ですが、実際にはハードルが高くほとんどの方が選んでいません。
結局は、納税資金の不足が見込まれるような場合には、早めに財産の現金化を準備される方が多いのが実情です。
3. 選択肢①売却による資金確保を考える
財産を売却して現金化することが、最も一般的でしっかりと検討したい資金確保の方法になります。
上場株式や投資信託のような金融資産があれば、それらを現金化して相続税の納税に充てることができます。
これらの金融資産はすぐに現金化できますので、納税資金の準備には効果的です。
金融資産がないような場合には、不動産など、現金化に時間がかかる財産の売却を考えていく必要があります。
相続税の納税期限は相続の開始を知ったときから10か月以内とされていますので、その間に不動産をうまく売却することができればOKですが、
- 買い手がなかなか見つからない
- 買い手は見つかったとしても自分が希望するような価格では合意にいたらない
そのようなケースも考えられます。
また、相続の状況によっては、相続で取得した不動産をすぐに売却できないようなケースも考えられます。
例えば、
- 取得した不動産は、いま住んでいる自宅である
(→今後住む新居が決まるまで売却できない) - 取得した不動産が山林で、そもそも簡単に売却先が見つかるものではない
- 取得した宅地に、相続税申告において「小規模宅地等の減額特例」を適用していて、申告期限まで所有することが特例適用の要件になっている
(→特例の適用を受けるため、申告期限まで売却することができない)
などのケースです。
とはいえ、資金確保の選択肢のなかでは財産の現金化を検討していくことが一般的なので、早めに何を売却するのか、売却する財産の検討を開始しましょう。
なお、相続した不動産を売却する際は譲渡所得税がかかる点にもご注意ください。
※「取得費加算の特例」を活用しよう
相続税の申告期限から3年以内(相続発生から最長3年10か月以内)に相続財産を売却した場合、納めた相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算でき、譲渡所得税が軽減されます(租税特別措置法 第39条)。
売却検討時に必ず確認したい節税制度です。
4. 選択肢②延納することを考える
納税の期限までに現金で納付することが困難な場合には、その困難な金額を限度として担保を提供することにより、最長20年の年払いの分割払いで納付することができます(相続税法 第38条)。
これがいわゆる延納です。
ただし、延納期間中は利子税が必要となります。
またこの延納という制度ですが、相続税の申告数から見ても件数としては少ないです。
どれくらい少ないかというと、例えば、令和3年分の相続税申告の提出に係る被相続人数は134,725人で、相続税の納税者である相続人数は294,058人となっています。
(相続税の納税者数の参考値です)
※参照(令和3年分 相続税の申告事績の概要|国税庁HPより)
これに対して、例えば令和4年度の延納の許可件数はわずか856件と、非常に少ない方しか利用していない制度になります。
(ちなみに平成15年度の延納の許可件数は8,196件で、延納の利用者は平成30年度以降1000件を切っています。)
※参照(相続税の延納処理状況等|国税庁HPより)
国に認められた制度として選択肢には入ってきますが、この件数の少なさは、要件の厳しさや制度の複雑さに起因しています。
4‐1. 延納ができる要件とは
どのような場合に延納が適用されるのか、その要件を見ていきましょう。
延納は次のすべての要件を満たす場合に、申請することができます。
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること
- 延納申請書および担保関係書類を期限までに提出すること
- 延納税額に相当する担保を提供すること
この4番目の担保についても、提供できる財産の種類は、次に掲げるものに限られます。
- 国債および地方債
- 社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの
- 土地
- 建物、立木、登記される船舶などで、保険に附したもの
などです。
税務署長が延納の許可をする場合において、延納申請者の提供する担保が適当でないと認めるときには、その変更を求めることとなります。
なお、相続または遺贈により取得した財産に限らず、相続人の固有の財産や共同相続人または第三者が所有している財産であっても担保として提供することができます。
※ 延納税額が50万円未満かつ延納期間が3年以内のときは、担保提供が不要です。
4‐2. 延納する場合の利子税とは
この章の冒頭でもお伝えしましたが、延納期間中は利子税が必要となります。
延納期間と延納にかかる利子税の割合は、相続財産に占める不動産等の割合に応じて、おおむね下記「相続税の延納期間および延納に係る利子」の表のとおり定められています。
「相続税の延納期間および延納に係る利子」表

(上図は横にスライドしてご覧ください)
なお、各年の延納特例基準割合が7.3%に満たない場合の利子税の割合は、一定の算式により計算される割合(特例割合)が適用されます。
この表の「特例割合」は、令和7年(2025年)1月1日現在の「延納特例基準割合」0.9%で計算しています。
したがって、「延納特例基準割合」の変更があった場合には、次の表の「特例割合」も変動しますので、延納申請に際し所轄税務署で確認するようにしてください。
※引用(No.4211 相続税の延納|国税庁HPより)
4‐3. 延納するメリットとデメリット
最後にまとめとして、延納をするメリットとデメリットは以下のようになります。
| 延納のメリット |
| ・一時に多額の相続税を納税せずに、分割払いで納税できる |
| 延納のデメリット |
| ・延納期間中は延納税額に利子税がかかる ・延納を利用するための手続きが煩雑 |
これらを踏まえて、延納を検討するようにしましょう。
5. 選択肢③物納することを考える
延納によっても現金で納付することが困難な場合、その困難な金額を限度として、相続財産で納付(物納)することができます。
先ほど前章で、「令和4年度の延納の許可件数はわずか856件」とお伝えしましたが、令和4年度の物納の許可件数は、さらに少ない54件となっています。
(ちなみに平成15年度の物納の許可件数は4,545件で、延納と同様、平成29年度以降100件を下回っている状況です。)
※引用(相続税の物納処理状況等|国税庁HPより)
物納は、延納よりさらにハードルが高く、相続税の納税に関してほぼ選ばれていない方法と言えるでしょう。
そのため、延納も物納も、相続税の申告を得意としてる税理士であっても、実際に実務でたずさわったことがある方はあまりいないです。
※ 物納財産の評価は「相続税評価額」
物納する財産は時価ではなく相続税評価額で評価され、その金額分が納税額に充てられます。たとえば時価1億円の土地でも、路線価ベースで8,000万円と評価されれば8,000万円分にしかなりません。売却して時価で現金化した方が有利になるケースが多いのはこのためです。
5‐1. 物納ができるものの順位
物納できるもの(財産)にも制限があります。
相続財産のうち、日本国内に所在する次の財産の上位から順番に物納することになります。
<第1順位>
- 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
- 不動産および上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
<第2順位>
- 非上場株式等
- 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
<第3順位>
- 動産
※その他要件などもあります。詳しくは、国税庁のHPをご参照ください。
(No.4214 相続税の物納|国税庁HPより)
※「物納劣後財産」とは
売却が困難なため、原則として後順位でしか物納できない財産。市街化調整区域内の土地、接道義務を満たさない無道路地、地上権や賃借権が設定された土地などが該当します。
※「管理処分不適格財産」は物納できない
次のような財産は、そもそも物納の対象になりません。
- 抵当権など担保権が設定されている不動産
- 境界が明らかでない土地
- 所有権について係争中の財産
- 共有財産(共有者全員が共同で物納する場合を除く)
- 譲渡制限のある株式
これらに該当する不動産が多いため、物納の許可件数が非常に少ない理由のひとつになっています。
5‐2. 物納するメリットとデメリット
最後にまとめとして、物納をするメリットとデメリットは以下のようになります。
| 物納のメリット |
| ・延納によっても相続税を金銭で納付することが困難な場合に、相続財産で相続税を納税(物納)できる ・物納許可限度額までは、譲渡所得税は非課税になる |
| 物納のデメリット |
| ・物納が許可されるまで利子税がかかる |
とはいえ、物納は許可件数が極端に少ないです。
選択肢の一つではありますが、なるべく現金化できる道を模索するのが賢明です。
6. 延納・物納の申請書の見本
ここでは一例として、延納、そして物納を申請する際の申請書を、見本でご紹介します。
※引用(延納・物納申請書|国税庁HPより)
延納や物納をする際に必要になる書類は、
- 001相続税延納申請書(見本①)
- 003担保目録及び担保提供書:土地(延納申請書の別紙)
- 051相続税物納申請書(見本②)
- 054物納財産目録:土地・家屋用(物納申請書の別紙)
- 002金銭納付を困難とする理由書(相続税延納・物納申請用)
などがあります。
(見本①相続税延納申請書)

上の書類は、001の相続税延納申請書の1ページ目です。
延納申請税額の他、不動産の割合など細かに記載する必要があります。
(見本②相続税物納申請書)

上の書類は、051の相続税物納申請書の1ページ目です。
物納申請税額の他、物納に充てる財産などを記載する必要があります。
それぞれ決められた金額を計算し、申請書等を作成することで申請が許可されることで利用することができます。
ですが、申請が却下されることも十分に考えられます。
7. まとめ
相続税は、相続があったことを知った日から10か月の申告納税期限までに、現金で一括納付することが原則となります。
そして、もし納税資金が不足する場合は、
- 財産の売却
- 延納
- 物納
いずれか可能な方法を検討していくとよいでしょう。
いずれにしても、時間がかかることが想定されます。
やはり可能であれば、生前のうちから早めに相続税の試算を行い、納税資金を準備するなどの相続対策が必要となります。
できるだけ早め早めに対策を行うことで、期限に納税資金が不足するといった事態を避けることができます。
納税資金対策できないまま相続が発生し、延納や物納を検討される場合には、上記のとおりかなり手続きが煩雑で利用者も少ない制度であることを踏まえた上で、早めに税理士に相談するようにしましょう。
(特に、延納物納は件数が少ないため、相続税の申告に強い税理士に相談するのが良いでしょう)
当センターにも、相続税に強い税理士が在籍しておりますので、生前対策などぜひお気軽にご相談ください。









