- 相続税基礎控除の計算方法
- 相続税の申告が必要かどうか判断する流れ
- 基礎控除額を算出する際に注意すべきポイント
そもそも相続税は、相続した人全員に課せられるものではありません。
相続税がかかるかどうかは、相続が発生したときに、亡くなった人の財産額と相続人の人数によって決まります。
そこで重要になるのが、相続税の「基礎控除」です。
基礎控除が、相続税がかかる/かからないのラインを決めることになります。
この記事では、相続税の基礎控除についてわかりやすく解説します。
目次【本ページの内容】
1.相続税の基礎控除とは〈相続税がかからない一定のライン〉
相続税の基礎控除とは、下記の数式で計算された金額のことです。
つまり、相続人の人数が多いほど基礎控除額は増えます。
亡くなった人の財産額が、この基礎控除の金額を下回る場合は、相続税の申告は不要です。
【法改正前の相続にはご注意を!】
2015年(平成27年)に相続税法が改正されて、現在は上記の基礎控除の計算になっています。
改正前の基礎控除の計算は、
5,000万円+(法定相続人の人数×1,000万円)
で、基礎控除額が大きかったために相続税の申告は現在よりも少ないものでした。
※2014年(平成26年)以前に亡くなった人の相続に関しては、改正前の計算式で基礎控除額を算出します。
2.相続税の申告が必要かどうか実際に計算してみよう
実際にどのように基礎控除額を計算し、相続税の申告が必要かどうかの判断をするのか。
具体例を挙げてみていきましょう。
この場合の相続について、順番に計算していきます。
2-1.基礎控除の金額を計算しよう
まず、法定相続人は配偶者である妻と子2人の計3人です。
つまり、相続税の基礎控除は
3,000万円×(法定相続人3名×600万円)
で計算ができ、4,800万円 ということになります。
この金額が、相続税の申告が必要になるかどうかの基準になります。
2-2.相続税の対象になる財産額を計算しよう
基礎控除の金額がわかれば、次は相続する財産がいくらになるのかを計算します。
相続税の申告の対象になる財産は、主に
- 不動産(土地や建物、畑など)(※1)
- 現金預貯金(※2)
- 株式証券(投資信託なども含む)
- 自動車
- 貸付金、特許権、著作権など(※3)
などがあります。
(※1)不動産は、基本的に路線価や固定資産税評価額などをもとに評価します。
(※2)普通預金や定期預金など、被相続人(亡くなった人)名義のものすべてが対象です。
(※3)金銭に見積もることのできる経済的価値のあるものが対象です。
また、相続財産ではないものの「みなし相続財産」として計算に含むものに、
- 生命保険金
- 死亡退職金
などがあります。
※これらに関しては、別途「法定相続人の人数」による非課税限度額があります。
詳しくは国税庁のHPへ:
No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
上記の財産は、いわゆる「プラスの財産」ですが、借金やローンなどの「マイナスの財産」も相続税の計算に含みます。
(もちろん相続財産からマイナスされます)
また、亡くなった人の葬儀費用も遺産総額からマイナスすることができます。
このように洗い出した「プラスの財産」と「マイナスの財産」を合計して、「相続税の対象になる財産額」を算出します。
ここでは仮に、以下のような相続財産だとします。
〈プラスの財産〉5,000万円
不動産 3,000万円
預貯金 1,000万円
保険金 1,000万円
〈マイナスの財産〉-300万円
ローン -150万円
借金 -100万円
葬儀費 - 50万円
つまり相続財産は
5,000万円-300万円で、4,700万円。
これが「相続税の対象になる財産額」ということになります。
2-3.基礎控除額と相続財産額を比べてみよう
2-1章で計算した「基礎控除の金額」と
2-2章で計算した「相続税の対象になる財産額」を比べて、
「相続税の対象になる財産額」が「基礎控除の金額」を超えていると、相続税の申告が必要になります。
今回の例でいうと
夫の財産額が基礎控除額を下回っているため、相続税は発生しません。
そして税務署への相続税の申告自体も不要となります。
このように相続税は、まず基礎控除の金額を計算し、亡くなった人の財産額が
- 基礎控除額より多い場合は申告が必要
- 基礎控除額より少ない場合は申告が不要
ということになります。
※わかりやすくお伝えするために、財産額はあえて簡略化しています。
実際の相続税の計算は、不動産の評価や株式の評価など複雑であるため、実際の計算や申告の要不要につきましてはお気軽にご相談ください。
3.基礎控除額を計算する際の4つの注意点
相続税の基礎控除における「法定相続人の人数」は、被相続人が亡くなったときの相続関係に基づいて決まります。
そこで、注意すべきポイントがあります。
これらについて解説します。
3-1.相続人に被相続人と養子縁組をした人がいる場合
相続人の中に、被相続人と養子縁組をして養子となった人がいる場合、基礎控除額の計算における「相続人」として数えられる養子の人数が制限されます。
- 亡くなった人に実子がいる場合 :カウントできる養子は1人まで
- 亡くなった人に実子がいない場合:カウントできる養子は2人まで
(実子とは、血の繋がりのある子のことです。)
ただし、以下のケースでは養子であっても実子とみなし、(人数制限のない)法定相続人として基礎控除の人数にカウントすることができます。
- 「配偶者の子(いわゆる連れ子)を養子」にする場合
- 「特別養子縁組」の場合
- 「養子の子」の場合(養子が被相続人より先に亡くなっており代襲相続が発生している場合)
〈なぜ養子の人数に制限があるのか?〉
養子縁組は養親と養子の合意でできるため、どんどん養子を増やすことができます。
全ての養子を基礎控除の計算に入れると、相続税を逃れようと際限なく養子縁組をして養子を増やそうとする人が出てくる可能性があり、このような制限が設けられています。
3-2.相続人に相続放棄をした人がいる場合
相続人の中に、家庭裁判所で相続放棄をした人がいる場合は、基礎控除額の計算に影響ありません。
「相続放棄をした人も含めて」計算します。
※相続放棄とは、「初めから相続人でなかったものとみなす」と民法で定められています。
本来の相続では相続人にならないため、「基礎控除の計算からも外すのでは?」とよく勘違いされます。
ご注意ください。
また、例えば亡くなった人の子(第1順位)が全員相続放棄をして、相続権が亡くなった人の父母や祖父母(第2順位)に移った場合も、相続税の基礎控除額は、第1順位の人数(配偶者は常に相続人なので計算に入る)で計算することになります。
3-3.相続人に欠格事由に当たる人がいる場合
相続人の欠格事由とは、「被相続人を死亡させたり、被相続人が作った遺言書を破棄したりすること」で、相続人となることができない人のことです。
相続欠格になった人は、相続税の基礎控除の計算に入りません。
相続人とならないため、相続税の基礎控除の計算にもカウントされないということです。
ただし「相続欠格になった人の子」は代襲相続をすることができるため、代襲相続でその子が相続人となった場合は、相続税の基礎控除の計算にカウントすることができます。
3-4.相続人以外で遺言により財産をもらう人がいる場合
被相続人が遺言書を遺していて、相続人以外の人にも財産を渡す場合、受遺者(遺言で財産をもらう人)は相続税の基礎控除の計算にはカウントされません。
受遺者は、そもそも相続人ではないためです。
(しかし、相続税の申告が必要な場合は、受遺者も当然申告義務があります。)
4.まとめ
この記事では「相続税の基礎控除」に特化して解説いたしました。
基礎控除について正しく理解し、相続税の申告が必要か不要かを判断し、必要となれば相続税申告をしましょう。
とはいえ、実際の相続税の計算はより複雑で、不動産の評価や生前贈与によって「相続税の対象になる財産」の金額は変わります。
また「配偶者の税額の軽減」「小規模宅地等の特例」といった様々な制度もあり、本当に相続税の申告が必要かどうかは、一般の人では判断することが難しくなっています。
この記事で「基礎控除はこういうものなんだ」とご理解いただき、実際の相続税の要不要、あるいは申告についてお困りの際は、相続税に強い税理士のいる当センターへとお気軽にご相談ください。