配偶者居住権って何?大切な5つのポイントを解説

夫が亡くなりました。相続人は妻である私と息子の2人です。相続財産は少しの預貯金と私達夫婦が住んでいる建物です。現在息子は独立しており、私がこのまま住み続けたいということに同意してくれています。
そこで、息子が「配偶者居住権」という法律ができたらしいと教えてくれましたが、そのメリットなどわかりやすく教えていただけますでしょうか。

 

残されたご遺族の方にとって、今後の生活を大きく左右することになるかもしれない遺産相続。

 

この遺産相続に関する法律(=相続法)が2019年1月から段階的に改正され、計8項目の仕組みが新設・変更されているのをご存知でしょうか。

 

当センターにも相続法改正に関するご相談が多数寄せられています。

実際に寄せられたご相談内容をもとに、それぞれの変更点や新設内容について詳しくご説明いたします。

 

(参考資料)相続法改正一覧(出典:法務省民事局)

 

今回は「配偶者居住権」の新設ついて掘り下げていきましょう。

 

1.配偶者居住権とは

1-1.制度の概要

配偶者居住権とは、簡単に申しますと、亡くなられた方(被相続人)の配偶者が相続開始前から住んでいた家に継続して住める権利です。

 

これまでは、相続人が複数いて相続財産に対して不動産の価値の占める割合が多い場合、亡くなられた方(被相続人)の配偶者は今まで住んできた家を取得する(そのまま住み続ける)ことをあきらめなければならなくなるケースもありました。

 

このような問題を解決するために新設されたのがこの制度です。

 

法律においては次のように定義されています。

配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、 終身または一定期間、配偶者の建物の使用を認めることを内容とする法定の権利

 

難しい言いまわしですが、ここでのポイントは、配偶者居住権は「使用権」であるということです。

 

1-2.いつから?

2020年4月1日から施行されています。

 

ここで、一点ご留意いただきたいのが、現在の法律では、相続発生日時点での法律が適用されることになっています。

 

つまり、死亡日が施行日以降の場合にのみ適用され、死亡日がそれ以前の場合は適用されません

 

例えば2020年3月13日に発生した相続では、これから手続きを開始するというケースであっても残念ながらこの権利を行使することができないことになります。

 

1-3.対象となる人は?

被相続人の配偶者(夫、妻)となっています。

 

ここで一つ気になるのは、

  • 内縁の妻
  • 事実婚の場合

はこの権利を行使できるのかと申しますと・・・

残念ながら、答えはNOです。

 

現時点の法律では、内縁の夫(または妻)には相続権が与えられていません。

 

配偶者居住権はあくまで被相続人の配偶者が利用できるものなので、事実婚や内縁配偶者は対象外となっています。

 

※過去に内縁の配偶者にも相続権が認められたというケースもありますので可能性はゼロではありませんが、取得することはかなり困難であることは間違いありません。

 

1-4.対象となる建物は?

この配偶者居住権の適用の対象となる建物ですが、建物全部が対象となります。

 

確かに一部だけが対象となっても、「今後住み続ける」という点においては不都合が生じる可能性が高いですよね。

 

配偶者居住権は、被相続人名義である建物の全部について使用できる権利になります。

 

1-5.存続期間は?

終身とされています。

(原則として)

 

つまり、ご自身が亡くなるまでその権利を持ち続けることができます。

 

ただし、遺産分割協議などで存続期間を設定することも可能です。

 

例えば、「私は70歳になったら家族のお世話にならないように施設に入居する!」と決めておられる方や、先々子どもや他の相続人に土地や建物を譲りたいという方は、予め存続期間を設定しおくと後々の話し合いやお手続きをスムーズに進めることができます。

 

1-6.その他

配偶者居住権の対象となる建物の利用方法は、相続開始前と同じでなければなりません。

 

これはどういうことかと申しますと、例えば建物の1階部分を居住用に使い、2階部分をテナントにして賃貸していた場合、相続後も同じように利用しなければならず、建物すべてを居住用に使用変更することはできません。

 

この新設された制度については法務省HPに詳細が載っております。

>>法務省HP:残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。

 

2.事例でわかる!2つのメリット

それでは、今回のご相談者様の事例に沿って、この制度のメリットについてご説明いたします。

 

まず、ご相談内容を整理いたします。

 

【相続関係】

被相続人:Aさん(72歳)

相続人:Bさん(配偶者:70歳)、Cさん(子:43歳)

※AさんとBさんは同一世帯、Cさんは別世帯

 

【相続財産】

預貯金 3,000万円

不動産(家屋 評価額2,000万円)

=総相続財産5,000万円

 

2-1.相続した住宅に無償で住み続けることができる

BさんとCさんは法定相続割合通りに遺産分割をすることで双方合意しています。

 

よって、Bさん、Cさんの取り分は2分の1ずつなので、総財産5,000万円を2人で均等に分けると1人あたり2,500万円相続することができます。

(5,000万円÷2=2,500万円)

 

このとき、不動産をBさん(配偶者)の名義に変更して住み続けるとなると、2,000万円分の不動産を相続することになるので、Bさんは預貯金については500万円しか相続することができません。

(2,500万円-2,000万円=500万円)

 

一方、Cさんは預貯金を2,500万円相続することになります。

 

預貯金の分割だけで考えると、Bさんは500万円、Cさんは2,500万円と、5倍もの差が生じることがわかります。

 

こうなってくると、現実的にBさんが十分な生活費を取得できない場合があります。

 

このようなケースの場合、配偶者居住権を行使することで、Bさんは一定金額の預貯金も取得でき、さらに建物に「無償」で住み続けることができます

 

2-2.相続財産相当額を低く算定することができる

配偶者居住権のもう一つのメリットとしまして、所有権ではなく「居住権」としての価値が考慮されるため、単に相続として名義変更して取得するよりは、その価値(相続財産相当額)を低く算定することが可能となります。

 

この配偶者居住権を活用した場合の遺産分割は次の通りとなります。

 

まず、BさんとCさんは、預貯金3,000万円を2分の1ずつ分けます

 

よって、この時点でBさんCさんそれぞれが1,500万円ずつ取得することになります。

(3,000万円÷2=1,500万円)

 

次に、2,000万円の不動産について、配偶者居住権と本来の所有権が2分の1ずつの価値を持っていると仮定します。

(※あくまでも仮定の数字です)

 

そうすると、

Bさんが相続する不動産の1,000万円分

「配偶者居住権」としての1,000万円

 

Cさんが相続する住宅の1,000万円分

「負担付き所有権」としての1,000万円

 

とみなすことができます。

 

「負担付き所有権」という初めての言葉が出てきましたが、簡単に申しますと、その住宅に住む権利(居住権)はないものの、所有権は存在している状態のことです。

 

結果、配偶者居住権を行使した場合の遺産分割は以下の通りとなります。

 

Bさん:預貯金1,500万円、不動産1,000万円(配偶者居住権)

Cさん:預貯金1,500万円、不動産1,000万円(負担付き所有権)

 

このように所有者であるCさんの取得財産の評価は下がることになります。

(つまり、相続税の計算にも影響することになります!)

 

3.取得方法

では、実際に配偶者居住権を取得するための方法とポイントについてご説明いたします。

 

3-1.遺言書または遺産分割協議によって決まる

まず、配偶者居住権を取得するためには、

 

①遺言書にその内容が書かれている

②相続人間での遺産分割協議で決める

 

のどちらかである必要があります。

 

つまり、亡くなられた方の配偶者に、自動的に配偶者居住権が与えられるわけではありません。(配偶者短期居住権を除く)

 

3-2.価格の決定方法は?

配偶者居住権の取得できる割合(価格)については、遺言書か遺産分割協議書かによって異なります。

 

①遺言書に書かれている場合

遺言書に書かれている場合、遺言書の内容に基づいて決定します。

 

②遺産分割協議で決める場合

相続人間での遺産分割協議においては、基本的には相続人同士の合意に基づき自由に決めることができます

 

いま「自由に」とお伝えしましたが、かと言って何も目安がないのも困りますので、法務省では参考として価格の目安を次のように設けています。

負担付き所有権の価値(価格)は、建物の耐用年数、築年数、法定利率等を考慮し配偶者居住権の負担が消滅した時点の建物敷地の価値を算定した上で、これを現在価値に引き直して求めることができる

 

価格の目安を知りたい!という方は、不動産登記のプロである司法書士、相続財産の評価や申告のプロである税理士にご相談されることをお勧めします。

 

4.注意点

配偶者居住権は、残された配偶者の生活の一部を保障してくれる手厚い制度ですが、その権利を侵害されないためにもいくつか注意しておいていただきたい点があります。

 

4-1.配偶者への注意義務が求められる

配偶者が配偶者居住権を行使するときは、「善管注意義務」を負います。

 

「善管注意義務」?

ゼンカンチュウイギム…と読むの…??

 

という感じかと思いますが、もう少し噛み砕くと「善良な管理者の注意をもって住む義務」、さらにさらに分かりやすく簡単に申しますと、“大事に注意して住む責任(義務)”がある、ということです。

 

すでにご説明しましたように、あくまでも居住権は「使用権」であり、ただ使用することが認められているだけです。

 

つまり、「所有権」は他の相続人が保持したままになっていて、配偶者は「人の家に住まわせてもらっている」状況なのです。

(住まわせてもらっているというと何か肩身が狭いような気がしてイヤですが…)

 

人のものは大事に使いなさい!と言われたことがあるかもしれませんが、それと近い状態かもしれませんね。

 

4-2.配偶者居住権の登記をしておく

配偶者居住権を取得する人がいるということは、負担付き所有権を取得する人が必ず出てきます。

 

居住権だけが発生しても、所有権がなければ誰の名義の不動産に住むのかが明確にならないですよね。

 

では、負担付き所有権を取得した相続人(先ほどの事例ではCさん)が、その権利を第三者に譲渡したと仮定します

 

その場合、配偶者居住権の登記をきっちりしていれば、その権利を侵害されることはありません

 

全く知らないDさんが不動産の所有者になったとしても、配偶者であるBさんはそのまま変わらず住み続けることができるということです。

 

こういった場合を想定して、口約束ではなく登記を必ずするようにしておきましょう。

 

万が一の場合に困るのは自分ですし、本当に取り返しのつかないことになってからでは遅いです。

 

4-3.相続税の課税対象になる

配偶者居住権は、被相続人の不動産を相続していることになります。

 

所有権ではありませんので名義人になることはありませんが、住み続けるという権利を取得(相続)しています。

 

したがってその権利は相続税の課税対象となり、相続税の計算に含めなければなりません。

 

えっ?もしかして相続税の課税対象になるのかも?

 

という方は、一度こちらのページで相続税がかかるかどうかを計算してみましょう。

>>相続税申告が必要かわからない方はこちら

 

4-4.その他

その他、下記のようなケースが発生した場合についてご説明いたします。

 

①建物を修繕したい場合

どのような建物であっても、住んでいれば当然傷んできますよね。

 

居住建物の修繕は、居住している配偶者がその費用負担で行うこととされています。

 

しかし、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしない場合、建物の所有者(名義人)は自ら修繕をすることができます

 

②建物を増改築したい場合

配偶者は、建物の所有者(名義人)の承諾がなければ、居住建物の増改築をすることはできません。

 

配偶者はあくまで居住権を取得しているのであって、所有権はあくまでも所有者(今回のご相談ではCさん)にあります。

 

人の所有物に勝手に工事したらダメですよね。

 

よって、単独で建物に何か手を加えることはできません。

 

尚、先ほどの「①建物を修繕したい場合」は逆に配偶者が費用を負担して修繕しなければなりませんでしたが、この違いは何でしょうか?

 

わかりやすく言うと、

①修繕→住むために必要なこと

②増改築→より良くするためであり、必ず必要なものではない

ということです。

 

③建物の固定資産税について

建物の固定資産税というのは、建物の所有者が納税義務者とされています。

 

この考え方でいくと、配偶者居住権が設定されている場合であっても、所有者がこれを納税しなければなりません

 

しかし、配偶者は、建物の通常の必要費を負担することとされています。

 

あくまでも固定資産税の納付の義務があるのは建物の所有者ですが、納税後はその支払った金額を配偶者に対して請求することができます。

 

④家族や家事使用人を居住建物に同居させたい場合

配偶者居住権は配偶者の居住を目的とする権利です。

 

よって、配偶者が家族や家事使用人と同居することも当然予定されていますので、これらの人を建物に同居させることも可能です。

 

但し、建物を賃貸住宅として第三者に賃貸しようとする場合には、建物の所有者の承諾を得なければなりませんのでご注意ください。

 

⑤不要となった配偶者居住権を第三者に売って資金を得たい場合

配偶者居住権は、

・配偶者にのみ与えられた

・居住を目的とする権利

です。

 

よって、第三者に配偶者居住権を売却することはできません

 

ただし、配偶者居住権を手放すことを条件に、その利益を受ける建物の所有者から金銭の支払を受けることは可能です。

 

配偶者居住権を解除

所有者は自由に使用、賃貸、売却などできるようになる(利益を受ける)

その対価として金銭を配偶者に支払う

 

ということです。

 

また、上記④とも重複しますが、建物の所有者の承諾を得れば、第三者に居住建物の使用又は収益をさせることは可能です。

 

使用しなくなった建物を第三者に賃貸することで、賃料収入を得ることも法律上可能ということですね。

 

5.配偶者短期居住権

配偶者居住権と似た権利として、「配偶者短期居住権」があります。

 

「配偶者短期居住権」とは、遺産分割協議がまとまらない場合など、“配偶者居住権が取得できない配偶者への救済制度”とイメージしていただけたらよいかと思います。

 

ここでは、配偶者居住権との違いについてご説明いたします。

 

5-1.有効期間がある

配偶者居住権は終身の権利(※原則)とご説明しましたが、配偶者短期居住権には有効期間が定められています。

 

その期間と申しますと、

「相続開始から6か月」または「遺産分割が決まってその住宅を取得する人が決まった日」いずれか遅い方

となっています。

 

配偶者がすぐに住む場所を失うことのないように、残された配偶者を守ってくれる“猶予期間”とイメージしていただけたらよいかと思います。

 

5-2.対象の範囲は?

配偶者短期居住権の対象範囲は建物居住部分のみと決められています。

 

あくまで住む場所を失いそうな配偶者に対する救済制度なので、その部分に関しては居住部分のみと限定されています。

 

5-3.注意点

配偶者短期居住権は、配偶者居住権とは異なり、登記することはできません。

 

よって、建物の所有者などにより、万が一建物が第三者に譲渡されてしまった場合には、その第三者に対して配偶者短期居住権を主張することができません。

 

代わりに、配偶者は、建物を譲渡した者に対して債務不履行に基づく損害賠償を請求することは可能です。

 

6.まとめ

  • 配偶者居住権とは、2020年4月1日に新設された残された配偶者の住む場所と生活を守るための制度である。
  • 無償で住み続けることが出来るうえ、相続財産の価値を低く算定が出来る。
  • 取得するためには、遺言書にその内容が書かれているか、相続人間で合意が必要
  • 配偶者短期居住権という救済制度もある。

 

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