相続税の申告は「全員」が必要なわけではなく、一定額以上の財産(最低でも3,600万円以上)をお持ちだった方がお亡くなりになられた場合のみ相続税の申告と納税が必要になります。
明らかにその基準を超える財産をお持ちならすぐに判断できるかもしれませんが、微妙なラインであったり全く財産の全体像がわからない場合など、いざ手続きを進めていく中で気付くこともあるかと思います。
では、後から相続税の申告が必要であることがわかった場合、そのまま放っておいたらどうなるのかをインターネットで調べてみても
「時効があるので大丈夫!」
「3年過ぎたら税務署が来る可能性は低い!」
「税務署から連絡が来て多額の税金を納めないといけなくなった!」
など曖昧な情報が多く、何が本当かわからない・・・という方もおられるかと思います。
今回のご相談では、相続税の申告が必要だと分かった時点で申告する必要があるのか、具体的な解説を説明していきたいと思います。
目次【本記事の内容】
1.税金にも時効がある
消費税、固定資産税、自動車税など日々いろいろな税金を払って私たちは生活をしていますが、実は税金にも時効があることをご存知ですか?
その時効には次の2種類があります。
①賦課権の除斥期間
②国税の徴収権の消滅時効
2種類のいずれかに該当することによって時効が成立すれば、その後に税金を支払う必要はありません。
どちらもそもそも文字が読めないレベルの難しさですが、できるだけわかりやすくそれぞれ解説させていただきます。
1-1.賦課権の除斥期間とは
読み方は「賦課権(ふかけん)の除斥期間(じょせききかん)」と言います。
ただ、読み方がわかっても意味が分からないと思いますので、「賦課権」と「除斥期間」に分けて説明していきます。
「賦課権」とは、税務署長が更正、決定及び賦課決定を行うことが出来る権利をいいます。
簡単に言うと、税務署長が「納税しなさい」という義務を確定させる権利で、税務署長が一方的に何らかの根拠をもって相続税の申告が必要な相続人に対して「税金を払ってください」と請求することをいいます。
例えば、
・相続税の申告が必要な人が提出した申告書の内容に誤りがあった場合
・相続税の申告が必要なのに申告しなかった場合
・税務調査
などにより税務署長が税金の金額を決めることを指します。
「税務調査で税金取られた…」などと言われている事業主の方のお話を聞いたことがあるかもしれませんが、それこそまさに賦課権によるものです。
つぎに「除斥期間」とは、一定期間経過すれば権利が消滅する期間をいい、一定期間というのが原則5年です。
ただし、偽りその他不正の行為によって免れ又は還付を受けた場合には、法定申告期限から2年間は時効までの期間が進行しないため実質的に時効期間は7年間となります。
偽りその他不正の行為というのがどういった内容か気になると思いますが、例えば申告すべきことを知った上で申告しないことや、故意に偽って過少な申告をすることを指します。
法定申告期限とは相続税の申告期限を指すため、時効は「相続が発生した日」から5年又は7年ではなく、「発生日から10か月を超えた日」から5年又は7年になります。
(つまり、5年10ヶ月又は7年10ヶ月)
相続税の申告期限は相続が開始した日から10ヶ月でしたよね。
以上、「賦課権」と「除訴期間」についてそれぞれ説明しましたが、これが時効の一つ目になります。
1-2.国税の徴収権の消滅時効とは
先ほどの「賦課権の除斥期間」と何が違うのかをお伝えする前に、基本的には同じく5年で時効を迎えます。
(国税通則法七十二条に規定されています)
大きく違うところは、①請求、②差し押さえ、③仮差押え又は仮処分、④承認の理由で時効が中断された場合には、今まで経過していた期間がリセットされてしまうという点です。
ただ単に期間が経過すれば良いわけではなく、その間に①~④がないことが条件ということですね。
相続税では税務署から督促状が届くことで①に該当し、時効が中断されますので、国税の徴収権の消滅時効が相続税に適用されることはまずありえないと考えられます。
2.期限が過ぎた後でもやっぱり申告すべき?
今回のケースは
・たまたま税務署からの指摘がない
・申告しなければならないことを知らなかったため申告していない
という状況ですが、申告納税が必要かも知れないと分かった段階で専門家に相談することをお勧めします。
そうすれば、申告した場合の納税額や延滞税、無申告加算税がどれくらいかかるのかを把握することもできますし、どの様に対処するか検討することもできるかと思います。
もちろん、1円でも申告が必要なことがわかった時点で本来は申告をすべきですが、財産状況、気付くまでの経過年数、相続関係等いろいろなことを考慮した上で判断することも必要かと思いますので、まずは相談してみるというのが一番かと思います。
先ほどお伝えしました通り、時効はお亡くなりになってから5年10ヶ月又は7年10ヶ月です。
今回のご相談ではお母様がお亡くなりになられて5年との事ですので、これらの時効が過ぎるまでの間は税務署から連絡がある可能性はゼロではなく、常に心配が付きまとう事になります。
3.心当たりのあるあなた、これから申告を検討するあなたへ
財務省より開示されている相続税の納付に関する資料では、相続税の基礎控除額が変更になった平成27年以降は前年の倍近くの相続税申告の実績があり、今後ますますの高齢化に伴い死亡者数も増えていくことは間違いないので、さらに無申告事案を把握するという動きが厳しくなることが考えられます。
また、今後マイナンバーの普及に伴い税金や社会保険、銀行、保険会社等の情報が紐づくようになれば、相続財産を把握することがさらに容易になるかもしれません。
時効をヒヤヒヤしながら待つのではなく、申告期限内であれば財産の減額特例や控除を利用して納税額を減らすことを検討する方が得策ですので、相続に関して不安がある場合には、相続前の早い段階から一度専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
4.まとめ
少し難しい言葉が多かったかもしれませんが、
・時効には2種類あるが、相続税に適用されるのは賦課権の除斥期間
・国が相続税の納付額を請求できる期間は原則5年、悪質な場合は7年
・相続税の申告義務があることを知っていた場合は悪質な場合になる
ということです。