お母様に離婚歴があり、元配偶者(元夫)との間に子供が1人いらっしゃるということですね。
先に結論だけお伝えしておきますと、離婚した元配偶者との間の子供に相続権があるのかという点につきましては、答えは
YES です。
元夫との間の子供であっても母親にとっては「実子」ですので、母親の遺産を相続する権利があります。
また、その子供と一度も会った事がなく連絡先もわからない・・・という事ですが、状況によっては「不在者管理人制度」というものを利用することで相続手続きを進める事が可能となります。
それでは、詳しくご説明させていただきますね。
目次【本記事の内容】
1.元配偶者との間の子供に相続権はある?ない?
冒頭でお伝えしましたとおり、離婚した元配偶者との間の子供には相続する権利があります。
民法887条
被相続人の子は、相続人となる。
※被相続人=亡くなった人のこと。今回のご相談者様のケースでは母親のことを指します。
条文にある「被相続人の子」には、現在、婚姻関係にある配偶者との間の子供だけでなく、離婚した元配偶者との間に生まれた子供も含みます。
ごく当たり前のことと言えますが、離婚したからといって元配偶者との間の子供との親子関係が解消されるわけではなく、原則、その親子関係はこれから先もずっと続いていきます。
仮に、離婚した元配偶者に子供がついて行ってしまったために数十年間会っていなかったり、子供が自立して大人になって結婚して家庭を持っていたりする場合でも「親子」であることに変わりはありません。
離婚していない夫婦の間の子供であっても、数十年実家に帰っておらず両親に会っていなかったり、結婚して苗字が変わったりすることもありますが、それでも親子関係がなくなることはありませんよね。
尚、「親権」という言葉をご存知かと思いますが、離婚した元配偶者が子供の親権を取得しても、それによって親子関係がなくなる(=相続権がなくなる)わけではありませんのでご注意下さい。
何度も同じようなことをお伝えしましたが、要するに、自分の子供はずっと自分の子であり、親子関係は永遠に続くということですね。
※例外として、「特別養子縁組」という実親との親子関係を解消し、養親と実の親子関係を結ぶという制度はあります。
(特別養子縁組についてのご相談事例)
1-1. その遺産相続の割合は?
- 離婚した元配偶者との間の子供
- 再婚後の現配偶者との間の子供
さてこの両者に相続割合の違いはあるのでしょうか?
先ほどから何度もお伝えしておりますが、どちらの子供も「実子」であることに代わりありませんので、その両者の間で相続割合に差がつくことはありません。
つまり、遺産相続の割合は、離婚した元配偶者との間の子供も、他の子供と同じ第1順位の法定相続人として、同様の相続分が認められるということです。
今回のご相談者様のケースに当てはめてご説明させていただくと、現在の夫との間に子供が2人、離婚した元配偶者との間の子供が1人いますので、合計3人の子供がいることになります。
それぞれの子供の法定相続分は、2分の1(※残り2分の1は配偶者の相続分)×3分の1(子供3人で分ける)=6分の1ずつになります。
子供は全員同じ割合というところがポイントですね。
ちなみに法律上の相続人になれる範囲は「被相続人の配偶者と血族」と定められています。
配偶者は常に相続人になりますが、「血族」についてはその優先順位が法律で明確に決められています。
<法定相続人の相続順位>
第1順位 子供
第2順位 親・祖父母
第3順位 兄弟姉妹
なお、3順位までの全員が相続できるということではなく、早い順位の者から優先して相続する事ができます。
つまり、第1順位の法定相続人である子供がいる場合、第2順位以降の父母や祖父母、兄弟姉妹は一切相続することができないということです。
(第1順位の子供が全員相続放棄をした場合は第2順位へ、その第2順位の父母や祖父母も全員相続放棄をした場合は第3順位へ相続権が移ります)
1-2.元配偶者に相続権はある?ない?
結論から先にお伝えしますと、離婚した元配偶者に相続する権利はありません。
民法890条
被相続人の配偶者は、常に相続人となる
配偶者の定義は婚姻関係にある男女ですので、婚姻関係を解消した男女は法律的には夫婦関係が消滅し、その瞬間に赤の他人になってしまうのです・・・
結婚生活がどれだけ長くても、たとえ相続発生の直前に離婚しても、扱いは同じです。
逆に言うと、法的に夫婦である状態、つまり離婚届を提出していない状態であれば、離婚の協議中であっても、長年別居中であっても原則、配偶者としてお互いに相続する権利があるということです。
ずっと別居していた配偶者にも相続権があることがわかって子供とトラブルに…というご相談もありましたので、相続権があるかないかの判断は「戸籍上の配偶者かどうか」のみであるという点にはくれぐれもご注意下さい。
1-3.相続人全員で相続手続きしなかった場合に起こりうるトラブルとは
ご相談者様の状況のように、相続人の1人の居場所がわからず、連絡先もわからないというケースは少なくありません。
ましてや、1度も会った事がない状態でいきなり遺産分割の話し合い(=遺産分割協議)をするとなると不安に思いますよね。
しかし、だからと言って相続人の1人がいない状況で遺産分割協議を終えてしまうと、その遺産分割は無効です。
遺産分割は相続人全員の参加がなければ効力がありません。
連絡の取れる人だけで遺産分割を終えた後に相続人の1人が現れて「自分にも相続する権利があるんだからやり直しだ!」と言われた場合は、当然そうしなければなりません。
また、それによって相続人同士の関係が悪化したり、さらなるトラブルに発展する可能性もありますので、遺産分割協議は相続人全員の参加が絶対と覚えておきましょう。
2.相続人の1人がどこにいるかわからない・・・
相続人全員で遺産分割協議を進めたい、でも相続人の1人の行方がわからない・・・という場合ももちろんあると思います。
では、その場合はどうすれば良いのでしょうか?
2-1.現住所を割り出して手紙を送ってみる
だから行方がわからないって言ってるのに住所がわかるはずがない・・・という声が聞こえてきそうですが、これから詳しくご説明させていただきますね。
たとえ連絡先がわからなかったとしても、両者は「相続人」という立場にあることが明確な場合、相続手続きに必要な書類として戸籍謄本や改正原戸籍などを取得していくことで、最終的にはその方の本籍地を知ることができます。
本籍地を知ったところで住所ではないので意味がないと言われそうですが、ご安心下さい。
本籍地にある市区町村役場に「戸籍の附票(ふひょう)」という書類を請求することで、その人の住民票上の住所を確認することができるのです。
本籍地から住所を知ることができるのがこの「戸籍の附票」ですので、今まさに今回のご相談のような状況の方は、ぜひすぐに請求をしてみてください。
役所によっては他人の戸籍など個人情報の兼ね合いで発行できないと言われるかもしれませんが、お互い「相続人」という立場であることを戸籍などで証明することができればそれは取得できるはずです。
役所の方としっかり話し合いをして、発行してもらいましょう。
どうしても無理な場合、私たちのような専門家であれば業務として相続関係を調査することができますので、自分でそんな書類を請求できないという方もお気軽にご相談いただければと思います。
(参考記事)
では、住所がわかればそこに手紙を送ってみましょう。
そして、無事連絡が取れればそこから遺産分割協議の開始です。
もしそれでも連絡が取れない場合、例えば住民票を残したままそこを離れてしまっている場合はもうお手上げですので、次のステップへ進むことになります。
2-2.不在者管理人制度を使う
初めて耳にする方も多いかと思います。
不在者財産管理人とは、相続人が家庭裁判所に申立てをすることにより、裁判官が「不在者の代わりに財産を管理する人」を選任し、その選任された者(利害関係のない第三者)は不在者に代わって財産を守るという主旨の制度です。
なるほど、その不在者財産管理人が不在の相続人の代わりに遺産分割協議に参加すれば良いのか!と思われるかもしれませんが、不在者財産管理人に選ばれただけでは、遺産分割協議に参加することはできません。
さらに、
- 権限外行為許可の申立書
- 遺産分割協議書(案)
を裁判所に提出し、不在者に不利な内容にならないことが認められてようやく遺産分割協議ができるようになります。
裁判所を利用しなくてはいけないので決して簡単な手続きではありませんが、最悪の場合はこの制度を使うことで相続人の1人が不在でも遺産分割協議を有効に行うことができます。
3.今からできる!手続きをスムーズに進めるための準備とは
今回のご相談者様のように、母親に離婚歴があり、元配偶者との間の子供がいて、その子供の行方が分からない場合の遺産分割は非常に難しくなります。
お母様が入院中で病状が重いということですので、もちろん安静にしていただく事が第一ではありますが、万が一の場合に備えて今できることとしては、遺産の分け方について記載してある遺言書を作成することです。
大前提として、遺産の分け方には次の二つがあります。
- 遺言書
- 相続人全員での遺産分割協議
この二つを比べたとき、優先されるのは「遺言書」であり、遺言書があれば、その遺言書の内容に従って遺産を分けるのが原則です。
なので、被相続人(ご相談者様のケースでは母親)が遺産の分け方について書かれた遺言書を作成していれば、相続人の1人の行方が分からない場合でも、不在者財産管理人の選任などすることなく、その遺言書の内容のとおりに遺産を相続する事が可能になります。
また、病状が重くご自身で遺言書を作成する事が難しい、そういった方でも公正証書遺言という遺言方式なら、実際に公証人(公正証書遺言を作成してくれる人)に出張してもらい、入院先まで来てもらって作成するという方法もあります。
遺言書にもいくつか種類があり、それぞれにメリットデメリットがございます。
ぜひ、参考までにこちらの記事もご参考ください。
(参考記事)
4.まとめ
- 離婚した元配偶者との間の子供には相続する権利がある。
(離婚した元配偶者は相続する権利はない) - 相続人になれる範囲は、被相続人の配偶者と血族。
配偶者は常に相続人になるが、「血族」はその優先順位が法律で明確に定められている。 - 相続人全員が参加しない遺産分割協議は原則無効。
相続人の1人が不在の場合でも、不在者財産管理人制度を利用して、遺産分割協議を有効にすることが可能。 - 遺言書があれば原則、遺言書の内容に従って遺産を分けることができる。
遺言には様々な様式が存在するため、メリットデメリットを理解して状況にあった様式で作成することが大切。