結婚によって戸籍を抜けてしまった人の相続権に関するご相談です。
相続権があるかないかは非常に重要なポイントですよね。
相続権がある=相続できる
相続権がない=相続できない
ということですので。
ではその相続権があるかないかの判断基準は何でしょうか?
故人と同じ戸籍に名前が載っているかどうかでしょうか?
詳しく解説していきます!
目次【本記事の内容】
1.親の戸籍から抜けている場合の相続について
男性女性に関わらず、結婚を機に戸籍を抜ける(新たに戸籍を作る、他の戸籍に入る)ことは特別なことではなく、むしろ一般的にはそうなるケースの方が多いのではないかと思います。
今回は一例として、新しく戸籍を作ったパターンで考えてみましょう。
結婚を機に男性も女性も両親の戸籍を抜け、新しい戸籍を作りました。
その新しい戸籍には夫婦だけが載っています。
そして子供が生まれたときには子供が戸籍に入ってきますね。
つまり、この戸籍には夫婦の両親は載っていません。
そんな状況の中、夫婦の両親が他界しました。
この時、自分は父親・母親の相続人にはなれないのでしょうか?
答えはもちろんNOです。
今回のご相談で検討してみますと、論点は大きく以下の2つに分類されます。
①嫁に出ている
→父とは別戸籍であるので、そこに相続権が生じるのかどうか
②実家に兄が住んでいる
→自分が住居していない土地建物に対し、またそこには自分以外の他の相続人が居住していた場合、法定相続分を主張出来るのかどうか
では、一つずつ検討していきましょう!
1-1.結婚して親の戸籍から出ている場合、相続権はある?ない?
①嫁に出ている
→父とは別戸籍であるので、そこに相続権が生じるのかどうか
ご安心下さい。
答えはYESです!
民法には相続人について下記の通り記載されています。
〈民法第887条第1項〉
被相続人の子は、相続人となる。〈民法第890条〉
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
つまり、子供は常に法定相続人であり、被相続人(お亡くなりになられた方)に配偶者がいた場合、その配偶者も相続人ですよということです。
ここでのポイントは、子であることが相続人としての必要条件であり、同じ戸籍にいるかどうかは関係しないということです。
ちょっと想像していただければお分かりいただけるかと思いますが、仮に
「結婚して戸籍を抜けたら相続人ではなくなる」
とすれば、
「相続人になるために結婚しない」
という人が増えそうな気がしませんか?
ただでさえ少子高齢化の時代、もちろん結婚せずともパートナーとして生活を共にする選択肢もありますが、その二人の間に生まれた子供は戸籍上は非嫡出子であり、婚姻前の子供ということになります。
もちろん認知さえすれば親子関係が生じますので相続権に全く影響はしませんが、万が一その認知を忘れてしまったり怠ってしまうと、将来的にトラブルに発展しそうな気もしますね。
まとめますと、ご相談者様が父の子であることは、父の出生から死亡までの除籍謄本・改正原戸籍、またはお子様の戸籍謄本を確認すれば親子関係を確認できます。
その証明ができれば、たとえその時点で別の戸籍に入っていても、相続人という立場で全く問題なく相続権を主張することができます。
以上のことから、配偶者(母)は既にお亡くなりになられているとのことですので、父の子である兄とご相談者様が法定相続人となります。
※お父様にはこの二人以外に子供がいないことが戸籍謄本等から確認できています。
1-2.実家に兄弟が住んでいる場合、法定相続分は主張できる?できない?
②実家に兄が住んでいる
→自分が住居していない土地建物に対し、またそこには自分以外の他の相続人が居住していた場合、法定相続分を主張できるのかどうか
答えはYESです!
たとえお兄様が住んでいらっしゃるとしても、その土地建物の名義がお父様のものであれば、それはあくまでもお父様の財産です。
(※建築費用や土地購入費用をお兄様が負担しているなどの特殊な関係がないものとして)
名義が誰であるかを確認する方法は、一番早いのはご自宅にある権利証を見ることです。
ただ、普段見る事のない権利証を開いたとき、どこの何を見れば良いのかわからないと言われる方が非常に多いです。
確かに、ある程度の知識や情報がなければパっと見ただけではわからないかもしれません。
また、その権利証が実は古いもので、贈与や売買によって新しい権利証が発行されているという可能性もゼロではありません。
次にできる方法は、法務局で不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を請求する方法です。
こちらも滅多に足を運ぶ事のない法務局ですので、戸惑われる方も多いかと思います。
しかし、現地まで足を運べば案内の方もおられますし、看板などの表示を確認すればある程度わかると思いますので、まずは足を運んでみることだと思います。
上記法務局にも関連しますが、お父様のお住まいだった市区町村の役所で「名寄帳」の閲覧請求をすることでも確認出来るかもしれません。
「かもしれません」とお伝えしましたのは、役所が把握するのはあくまでも固定資産税を支払う人という意味での「納税義務者」であり、不動産の所有者については厳密に管理し、その名寄帳に「所有者」として記載しているかというと、全ての役所でそうとは言えないからです。
以上、3つの方法を挙げましたが、一番確実に名義を確認するのは法務局で登記事項証明書を取得することかと思います。
ちなみに・・・、法務局は「登記」を扱うところであり、登記とは「その土地、建物が誰のものであるか明確にするため、所有者の登録、記録をすること」です。
不動産の相続においては、登記されていることが大きなポイントになってきます。
登記がお父様名義であれば、いくらお兄様が居住している事実を主張したとしても相続財産であることに間違いなく、遺言書があるなど特殊なケースを除けば基本的にはご相談者様にも法定相続割合である2分の1を相続する権利があります。
では、建物をキレイにスパっと半分に切り分けて…ということができないのが不動産の相続の難しいところですよね。
現実的には今住んでいるお兄様がそのまま継続して住み続けるというケースが多いかと思いますが、その場合はその不動産の評価額の2分の1相当額を金銭にてお兄様から受け取る、つまり自分の持っている2分の1の権利をお兄様にお金で買い取ってもらうという方法も考えられます。
ただ、あまりにも不動産の評価が高かった場合、仮に2,000万円だったとすれば、その半分の1,000万円のお金をお兄様は用意しなければならないことになります。
それがすぐに用意できるのであれば問題ありませんが、なかなか難しいケースの方が多いのではないかと思います。
また、今例に挙げました2000万円という評価ですが、この評価を誰がしたかで意見が分かれることが非常に多いです。
- 役所が定める固定資産税評価額
- 国税庁が定める路線価
- 実際に市場で取引される際の市場価格
など、評価の方法や査定をする不動産会社によって金額は大きく異なります。
それぞれ自分に都合の良い評価額を主張し始めると…やはり揉めることになるかもしれません。
2.勝手に名義変更されないか心配・・・
ご自宅が相続財産である限り(お亡くなりになられたお父様の名義である限り)、名義変更をするにあたって相続人全員の同意が必要になりますので、お兄様がご相談者様に内緒で名義を完了することは不可能です。
また、その同意を証明するのは口頭ではなく、遺産分割協議書を作成し、そこに相続人全員が署名し、実印を押し、印鑑証明書を添付することで初めて「同意」とみなれますので、勝手に「妹は同意してるので大丈夫です」などと言って手続きをすることはできません。
ただ、例外的に、他人の権利を侵害しない範囲、つまりそれぞれが2分の1ずつの共有名義で登記をするのであれば同意は不要ですので、その点についてはご注意下さい。
当センターにも「相続人間で仲が悪く、勝手に名義変更されてしまう事はありませんか?」というご相談は非常に多いので、ご参考までお伝えさせていただきました。
最後に、話は戻りますが、結婚して両親とは戸籍が別であるため、自分には相続権がないと思われるご相談もたくさんいただいております。
ご自身に相続権があるかどうか不安なときは、1度当センターにご相談ください。
ご相談はもちろん無料です!
相続手続きの代行をご検討の方はこちらもご覧ください。
3.まとめ
- 結婚等によって被相続人と別の戸籍に入っていても、親子関係の事実が戸籍謄本で確認出来れば相続権はある。
- そこに住んでいるかどうか、居住の有無によって相続権が左右されることはない。

嶋田 裕志Yuji Shimada
日本行政書士会連合会11260290号
大阪府行政書士会 第6071号
宅地建物取引士 第090938号
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相続・遺言専門の行政書士として10年を超える実績。行政書士の範囲だけでなく、相続税や不動産など相続に関する幅広い知識を持つ。全国各地を飛び回り、孤独死されたご自宅内での遺留品の捜索や不動産の売却のサポートまで対応。新聞、雑誌、WEBメディアなどの取材実績も多数。G1行政書士法人の代表。