- 相続税は 「自分の分を自分で払う」のが原則。ただし相続人同士は互いに連帯納付義務を負っており、他の相続人が払わないと自分が肩代わりして払う必要が出てくる
- 督促後1か月を経過しても払われない場合、税務署から自分にも通知が届くことがある
- 肩代わりした分は「求償権」で本人に請求できる。ただし 求償権を放棄すると贈与税がかかることも
- 申告期限から5年経過、または 本来の納税者が分割払い (延納) や納税猶予の適用を受けた場合、自分の連帯責任 はなくなる
相続税の申告でよく勘違いされるのは、「申告=納税」ではないということです。
「申告」はあくまでも税務署へ書類を提出すること、「納税」はその申告書に記載の税額を納付することですので、現実的には申告書だけ提出し、そのまま納税をしないという状況は起こり得ます。
今回はまさにそういったケースになってしまった場合のご相談で、しかもご自身は納税済、共同相続人の一人が納付をせずに連絡が取れなくなったという状況です。
では、今回のご相談のポイントを挙げておきますと、
- ご相談者様は納税をすませていること
- 義理のご兄弟と連絡がつかないこと
- ご相談者様に何か影響が出てくるのか
というところになるかと思います。
それでは、具体的にご説明させていただきます。
目次【本ページの内容】
1. 相続税は誰が払う?連帯納付義務で他の相続人にも責任が及ぶ
「いや、だから私の分はもう支払いましたよ?」という声が聞こえてきそうですが…少し難しい言い方で一旦説明しますね。
まず、相続税法では、
- 同一の被相続人(お亡くなりになられた人)から相続または遺贈により財産を取得した全ての人は、
- その相続または遺贈により取得した財産に係る相続税について、
- その相続または遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、
- 互いに連帯納付の義務がある
とされています。
分かりやすいように言い換えます。
要は、その納めない人に代わって他の相続人が相続税を納める必要があるということです。
この仕組みを「連帯納付義務」といいます。
今回の、ご相談に照らし合わせますと、
- 遺産分割協議書が成立して相続によってそれぞれ財産を取得している
- ご相談者様はご自身の納税は済ませている
- 義理の兄と連絡がつかず、納税がされていない
以上のことから、ご相談者様は以下の金額を義理の兄に代わって納税する必要があります。
[ 計算式 ]
相続した財産の金額-債務の金額-ご自身で納めた相続税、登録免許税の額
例えば、
- 自分が相続した財産の金額が5,000万円
- 債務が500万円
- 納めた相続税が500万円
のケースで考えてみます。
上記計算式を使うと
5,000万円-500万円-500万円=4,000万円
となり、ご相談者様が義理の兄に代わって 4,000万円を上限として相続税を納付する義務があるということです。
つまり、4,000万円を上限に義理の兄の納税を「肩代わり」する形になります。
相続した金額を上限としていますので、あくまでも自分のもともと持っている資産を取り崩してまで支払う必要はないということですね。
簡単に言えば、相続した範囲で払いなさいということです。
なお、納税を滞納したことによって生じる延滞税を加えてご相談者様が代わりに納付する必要がありますので、私は知らない!と言って放置することは反って自分の首を絞める事にもなりますので注意が必要です。
ただ、実際に税務署から連帯納付の連絡が来る場合には、次の順番をたどります。
- 本来の納付義務者(義理の兄)に対して納付の督促
- 督促後1か月を経過しても完納されない
- 連帯納付義務者(ご相談者様)に通知が届く可能性がある
(相続税法第34条第6項)
そもそもの支払い義務は本来の納付義務者にあるため、いきなりご相談者様に請求が来るわけではありません。
この通知によりご相談者様が代わって納税することになりますが、義理の兄がそれを知らずに遅れて納付してしまったときは二重で納付することになってしまいますので、ご相談者様が納税される前には再度連絡を取ってみることをお勧めします。
(二重で支払った分はもちろん還付を受けることができますが、それはそれでまた手続きが複雑になりますので…)
2. 払った分は返してもらえる?求償権と贈与税リスク
本来の納付義務者である義理の兄に代わってご相談者様が相続税の納付を行った場合には、「求償権(きゅうしょうけん)」が発生します(民法第442条)。
求償権とは、債務を弁済すべき人に代わって弁済をしたことにより、債務を弁済した人が本来弁済すべき人に対して肩代わりした分の返済を請求することができる権利とされています。
債務とか弁済とか難しい言葉をたくさん使いましたが、要は「代わりに払った分を返して!」という権利です。
今回のケースでは、義理の兄に代わってご相談者様が納付した金額分の返済を請求することができますので、義理の兄に対して連絡を取り、しっかりと返済をしてもらいましょう。
と言っても、そもそも納付をしないような人ですので、そんな人が素直に連絡に応じてくれるかというと難しいかもしれませんが…
また、たとえ連絡が取れたとしても、「お金の話をすると急に激高したりして…」という感じで、お金を返して欲しいとはなかなか言い出しにくいというケースもあるかと思います。
そんな時、もう返してもらうこと自体をあきらめて、求償権を放棄することも可能ですが、放棄した場合は その納税した金額に相当する金銭を贈与したとみなされ、義理の兄に対して贈与税が課される可能性があります。
改めて考えてみると当然といえば当然のことなのですが、贈与税は受け取った側(今回のご相談では義理の兄)に納税の義務がありますので、それを怠ると今度は贈与税の延滞税などを義理の兄は負担しなければならなくなります。
想像もしていなかったところでいろいろなペナルティが課される可能性がありますので、くれぐれもご注意ください。
3. 連帯納付義務が解除される3つのケース
「では、この連帯納付義務はいつまで続くの?」と気になる方も多いと思います。
実は、連帯納付義務は一度負ったらずっと続くわけではなく、次のいずれかに該当すると解除されることになっています(平成24年度改正)。
3-1. 申告期限から5年を経過したとき
本来の納付義務者の申告期限から5年を経過する日までに、税務署から連帯納付義務履行の通知書(先ほどの③の通知)が発出されなかった場合、連帯納付義務は解除されます。
つまり、「申告期限から5年以上経って急に通知が来た!」ということは法律上ありませんので、ひとまずご安心ください。
3-2. 本来の納付義務者が「延納」の許可を受けたとき
延納は、簡単にいうと相続税を分割で払う制度です。ご相談者様の義理の兄が延納の許可を受けていれば、その延納の対象になっている相続税については連帯納付義務から外れることになります。
3-3. 本来の納付義務者が「納税猶予」の適用を受けたとき
納税猶予は、一定の条件(農地を引き継ぐ場合や、非上場株式を引き継ぐ場合など)を満たした人が受けられる制度で、その名のとおり相続税の納税を一時的に待ってもらえる仕組みです。こちらも義理の兄が納税猶予を受けていれば、連帯納付義務は解除されます。
もしこの3つのどれかに該当するなら、ご相談者様は義理の兄の未納分を肩代わりする必要はありません。連絡が取れる場合は、まず兄がこれらの制度を使っているかどうかを確認してみるのがいいでしょう。
4. その他の連帯納付の義務
今回のように通常の相続税申告のケース以外にも、次のような場面で連帯納付義務を負うことがあります。
- 被相続人自身が生前に相続税や贈与税を納めずに亡くなってしまった場合
- 相続や贈与により財産を取得した人がその財産を他の人に贈与などをした時
よかれと思って取った行動で税金が余計にかかってしまうケースもありますので、事前に専門家に相談されることをお勧めします。
後になってびっくりする金額の請求が来た…では困りますからね(汗
5. まとめ
相続税は各相続人がそれぞれ自分の分を支払うのが原則です。
ただし相続人同士は互いに連帯納付義務を負っており、誰かが払わないと自分にも肩代わりの責任が及ぶことがあります。
肩代わりした分は求償権で本人に請求できますが、諦めて放棄すると贈与税が課される可能性があるため注意が必要です。
一方で、連帯納付義務が解除されるケースもあります。 具体的には、申告期限から5年経過、または本来の納付義務者が延納・納税猶予を受けた場合です。
連帯納付義務履行の通知が届いたときは、まず本来の納付義務者と連絡を取って状況を確認しましょう。
「他の相続人が払ってくれない、どうしたらいいかわからない…」とお困りの方は、ぜひ当センターまでご相談ください。









