相続人の間で遺産分割協議が整った後に遺言書が見つかるケースですね。
当方へのご相談の中ではそれほど件数は多くありませんが、自筆証書遺言の場合はこういった可能性も十分に考えられます。
遺言書を書いた場合はやはり誰かにその旨を伝えておく、もしくは公正証書遺言を作ってその謄本を誰かに預けておくというのも一つの方法かと思います。
(謄本はあくまでもコピーですので、たとえ預けてしまっても改変のおそれがなく、紛失の場合にも再発行が可能です)
それでは、本題に戻りましょう!
遺産分割協議後に遺言書が見つかった場合、やはり一番気になるポイントは、その相続人間でなされた遺産分割協議の内容が無効になってしまうのかどうかだと思います。
ではまず、遺言と遺産分割の優先関係を確認してみましょう。
1.遺言書は法定相続に優先する
結論からお伝えしますと、遺言者の最終意思を尊重するという遺言制度の趣旨から、
「遺言書は法定相続に優先する」
とされています。
(遺言書は遺言者の最後の意思になりますので、尊重されるのは当然ですよね)
したがって、遺産分割協議が成立した後、その協議内容と異なる分割方法が書かれた遺言書が発見された場合、すでに成立した遺産分割協議は無効となってしまいます。
これはなかなか大変な事ですよね・・・。
では、もう今回のケースでは遺産分割協議は全く無視、いままで何回も話し合いをしてきたことは無駄、もうそれ以外に選択肢はないのでしょうか…
いえいえ、もちろんそんなことはありません^^
救済措置は次の2つです!
①受遺者が包括遺贈の放棄の申述をする
②受遺者も含め、全員が合意する
それぞれもう少し詳しくご説明致しますね。
1-1.救済措置①受遺者が包括遺贈の放棄の申述をする
「受遺者が包括遺贈の放棄の申述をする」とは。
少し難しい言葉ではありますが、
受遺者=遺言によって財産を譲り受ける人
包括遺贈=全部あげる
放棄=いりません
申述=家庭裁判所へ申立てする
です。
もっともっと詳しく説明しだすと「包括遺贈」と「特定遺贈」で異なったり、とにかくケースバイケースでいろいろなことがあり得ます。
ただ、全部あげる!と書いていた場合、全部いらない!という放棄の申立てをすれば、もちろん受遺者の意思が尊重されますので、すでに決まった遺産分割協議の通りに進めていくことが可能になるということです。
あまりこのケースは見たことがないですけどね。
やはり全部あげると書いていると、心情的には・・・ですよね。
1-2.救済措置②受遺者も含め、全員が合意する
こちらの進め方の方がシンプルですね。
受遺者の方も交えて全員で話し合いをして、全員が納得すればOKということです。
遺言書のそもそものお話になってしまいますが、例えば自宅の引き出しに遺言書があったのを発見した場合、そのまま放置したらどうなると思いますか?
裁判官が自宅にきて勝手に探してくれる?
税務署が見つけて勝手に税金の話をしてくる?
そんなことは100%ありません。
逆に言うと、その見つけた人が「あった~!」と言わない限り誰にも気付かれないかもしれないということです。
では見つけた遺言書をどうするのかというと、家庭裁判所へ持参し、「検認」という手続きを受けることになります。
つまり、ここまで進めて初めて「遺言書」になるということです。
(この「遺言書」というのは法的な効力を持つという意味で使用しています)
それでは、その「検認」が終わった事実が銀行や法務局や税務署に通知され、自動的に手続きが進むのでしょうか?
いいえ、そんなことはありません。
何度も同じような流れのお話になってしまい申し訳ありませんが、要は自分から動いていかないと何も進まないということなんです。
ですので、例え遺言書があったとしても、誰かがそれをもっと前に進めていかないと、遺言書通りに事が進むことはありません。
ではその受遺者が「もういいですよ、みなさんで分けて下さい」と言えば・・・
そうです、遺言書を相続人の誰かが持って無理やりその受遺者に財産を渡す必要はないんです。
(遺言者の意思を尊重するという意味では、少しでも汲み取ってあげた方が良い「想い」があるとは思いますが…)
ただ、受遺者に少しでも財産を渡すということになれば、そもそも受遺者が法定相続人でない場合、遺産分割として財産を受け取ることができませんので、相続人からの「贈与」ということになり、贈与税の対象となってしまいます。
遺言者の意思を汲み取って少しでも渡そうとした結果、多額の贈与税を払うことになってしまうという可能性もありますので、法定相続人以外の人が少しでも財産を受け取る場合はご注意下さい。
2.まとめ
以上、2つのパターンをご紹介しましたが、全部あげる!という遺言があった場合にすぐに連想すべきは「遺留分」ですね。
受遺者が放棄をすれば全く関係のない話ですが、遺言書通りに受け取ったとすれば「遺留分請求」の話が出てくることが推測されます。
こちらの記事もご参考にしてください。
最後にもう一点だけ、遺言書の中で「遺言執行者」が指定されている場合、民法1013条に
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない
と定められていますので、注意が必要です。
(詳しいご説明はここでは省略させていただきます)
◆◆◆まとめ◆◆◆
- まず、遺産分割協議をはじめる前に、遺言書がなかったかどうか確認してみましょう!
(故人の引き出しやタンスの中から自筆証書遺言が見つかる可能性もあります) - 公正証書遺言を作成していた場合は公証役場で検索できますので、協議を始める前に確認されることをおすすめします。
(今回のご相談では自筆証書遺言をメインにお話しましたので、公正証書遺言があった場合は少し進め方が異なります)
遺産分割協議が相続人間で整ったとしても、遺言書があれば遺言が優先される!

吉﨑 昌代Masayo Yoshizaki
全国社会保険労務士会連合会第27210156号
大阪府社会保険労務士会第22594号
日本行政書士会連合会16262536号
大阪府行政書士会第7268号
相続専門の社会保険労務士、行政書士。ご遺族の今後の生活の糧となる「年金」の専門家。適切に漏れなく年金が受けとれるように手続きの全てに対応する。金融機関出身で、銀行の相続手続きにも強い。G1行政書士法人所属。