自筆証書遺言とは、手書きで書かれた遺言書のこと(財産目録を除く)
- 自筆証書遺言の4つの必須要件
- 自筆証書遺言に必要な検認手続きのこと
- 法務局の遺言書保管制度はオススメ
- 自筆証書遺言のメリットとデメリット
亡くなった人の財産を相続する際、「だれが(相続人)」「どのくらい(相続割合)」受け取るのかは民法によって定められています。
しかし、例えば(財産を遺す側にとって)
- 「介護や生活の面倒を看てくれた長男の嫁に財産をあげたい」
- 「実家の家業を継いでくれる長男に財産をすべてあげたい」
- 「何年も顔を合わせていない子どもには自分の財産を渡したくない」
ということもあるでしょう。
この場合、法定相続割合ではなく自分の意志の通りに財産を渡すことができるのが「遺言」です。
ただし遺言は、ただ財産に関する意志を書くだけでは成立しません。
遺言が「有効」とされるためには、書き方にルールがあります。
そして、遺言の中でも遺言者(遺言をする人)が自分一人だけで手軽に作成できるのが「自筆証書遺言」です。
自筆証書遺言とは別に、公証役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」もあります。
公正証書遺言は、
・公証人に作成してもらうため、要式の不備を防ぐことができる
・相続人が遺言通りに相続手続きをする際に、家庭裁判所での検認の手続き(2章で解説)が不要になる
などのメリットがあります。
詳しくは下記記事をご覧ください。
この記事では「自筆証書遺言」について詳しく解説していきます。
1.必ず守ろう!自筆証書遺言の4つの要件
自分で書いた遺言書が有効であること、つまり正式な「自筆証書遺言」となるには民法で決められた要式に従って作成する必要があります。
(逆に、以下の要件を満たしていなければ、いくら本人が「遺言書だ」と思っていても、無効になるおそれがあります。ご注意ください。)
自筆証書遺言の必須要件は下記の通りです。
- 自筆で書くこと
- 日付を記入すること
- 遺言者の氏名があること
- 押印
①自筆で書くこと
「自筆証書遺言」は、その名の通り「遺言する人」が「全文自筆」で作成する必要があります。
遺言書に添える「財産目録」に限っては、パソコン等で作成可能です。
この場合、自筆していない財産目録には、1ページ毎に署名と押印が必要になります。
(※「財産目録」とはご自身の財産一覧のことですが、詳しくは本章末尾の補足1「財産目録について」をご覧ください)
②日付を記入すること
「自筆証書遺言」には、必ず日付を記入しましょう。
西暦でも和暦でも構いませんが、「令和2年2月22日」のように何月何日まで具体的に記入する必要があります。
(「令和2年1月吉日」など、日付が特定できない場合は無効になることがあります)
③遺言者の氏名があること
誰が書いた遺言書なのかを明確にするため、必ず氏名を記入しましょう。氏名がない場合も無効になることがあります。
④押印
「自筆証書遺言」にはハンコが必要です。必ず押印しましょう。
※複数ページになる遺言書の場合でも、財産目録のように各ページに押印する必要はありません。
※印鑑は実印である必要はなく、認印でも構いません。
ただ、実印を押印する方が「本人が作成した」という信ぴょう性を高めることができるため、実印を持っていないなど特別な事情がなければ実印を押印することをお勧めします。
自筆証書遺言の訂正をする場合は、
- 訂正する箇所を二重線で消す
- 訂正した内容を記入して押印
- 訂正する箇所を具体的に指示して訂正した内容を記入
- 署名をする
必要があります。
訂正の方法を誤ると訂正が認めらないこともあるため、注意しましょう。
財産の目録については、遺言者本人がパソコン等で作成しても、遺言者以外の人がパソコン等で作成しても全く問題ありません。
ただし、この場合は遺言書の自筆した本文と財産目録は別の用紙で作成する必要があるため注意しましょう。
(パソコンで作成した財産目録の用紙に追記の形で遺言内容を記載してもダメということです。)
また、預貯金については支店名や口座番号、不動産については地番や地積まで記載しておく方がベターですが、預貯金の通帳の写しや登記事項証明書を財産目録として添付することも可能です。
【補足2】遺言書を封筒に入れる場合のポイント
遺言書の保管の際に、多くの人が封筒を使うでしょう。
(封筒に入れること自体は必須ではありませんし、封をする必要も特にありません)
このとき、封筒の表面に「遺言書」と記載しておくと、相続人が見つけた際に遺言書が入ってることが分かりやすいため、ぜひ記載しておくことをお勧めします。
※遺言の書き方で気を付けたいのが、「遺贈する」場合です。
相続人以外の人に財産を渡す内容を遺言する場合は、必ず「遺贈する」と書くようにしましょう。
2.相続が始まったら、まずは「検認」をしよう
自筆証書遺言を作成する話ではなく、相続人がその遺言を見つけた時に必要となる手続きについて解説しておきます。
それが「検認手続き」です。
自筆証書遺言では、この検認手続きが必要となります。
※一方の「公正証書遺言」の場合は、この検認手続きは不要です。
※3章でもご紹介する「自筆証書遺言書保管制度」を使って法務局に自筆証書遺言を保管すると、この検認手続きは不要となります。
「検認」とは簡単にいうと、家庭裁判所で遺言書の存在と遺言書の内容を証明してもらう手続きのことです。
自筆証書遺言は、自筆であるがゆえに、見つけた人が勝手に開封して改ざんできてしまう可能性があります。
それを防ぐためにも、見つけた遺言書はすぐに家庭裁判所で「検認」してもらいましょう。
なお、検認は遺言書の有効か無効かの判断をする手続きではありません!
つまり検認を受けたとしても、遺言書の書き方や内容に問題があれば、残念ながらその遺言書を使って手続きをすることはできなくなってしまいます。
遺言書を作成する遺言者も、遺族として遺言を預かる相続人も、遺言によって財産を受け取る人も、誰もがこの「検認」について正しく理解し、きちんと手続きするようにしましょう。
(※検認の具体的な手続きや書類等については、裁判所の検認のHP(裁判所のホームページが開きます)をご確認ください。)
以下の記事でも検認について解説しています。
>>直筆で書かれた遺言書(自筆証書遺言)が見つかった場合
3.自筆証書遺言の保管は法務局がお勧め
令和2(西暦2020)年7月10日から「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。
これは、自筆証書遺言を法務局が保管してくれる制度です。
遺言書の保管は自宅でも問題ありませんが、法務局での保管は安心かつ安全で、相続人にとっても便利な制度です。
具体的なメリットは以下の4つです。
①紛失の恐れがない
相続人である家族が探しても遺言書が見つからず、存在しないと思っていたら後から見つかった!というケースは実はよくあります。
そういったことにならないよう、「死ぬまで遺言書の存在を知られたくない」という人にとっても、安心して保管ができます。
(保管された遺言書の原本は、遺言者が亡くなった後50年間は保存されます。)
②遺言書の破棄や改ざんを防げる
遺言書が完成し法務局に保管されると、自分の死後相続手続きのタイミングになるまで第三者との接点はなくなります。
つまり、相続人等が遺言書を破棄することや、内容を改ざんすることを防ぐことができます。
③遺言書の検認の手続きが不要
2章でご紹介した自筆証書遺言の検認手続きについて、この「自筆証書遺言書保管制度」を使って法務局で保管した遺言書については、検認手続きが不要になります。
保管する際に遺言書の要式が決められているため(つまり、保管時に外形的なチェックがあるため)、検認は不要です。
※検認が不要になるだけであって、遺言書の内容について有効性を保証するものではありません。
④死亡時に通知が行く
遺言者が希望すれば、あらかじめ通知対象としていた人1名に、遺言書が保管されている旨のお知らせを届けることができます。
このシステム、実はすごく画期的で便利なポイントです!
せっかく書いた遺言書が見つけられずにそのまま…という可能性がかなり低くなりますよね。
自筆の遺言書をしっかり作成しておけば、「自筆証書遺言書保管制度」には多くのメリットがあります。
ただし、自筆証書遺言の保管は代理人での申請はできず、必ず本人が窓口まで行く必要があります。
(足が悪くてなかなか外に出られない方にとっては難しい制度です…。)
保管手続きの流れは下記のとおりです。
「自筆証書遺言書保管制度」手続きの流れ
①自筆証書遺言の作成
遺言書はもちろん自分で作成する必要があります。
(要式や内容について不安なときは、弁護士や行政書士などの専門家に相談しましょう。)
②保管する法務局の選定
保管場所は下記の中から選択できます。(基本的に法務局になります)
・遺言者の住所地の遺言保管所
・遺言者の本籍地の遺言保管所
・遺言者が所有する不動産の所在地の遺言保管所
③保管申請書の作成
保管申請書は法務省のHPからダウンロードすることができます。
④申請の予約
遺言書の保管申請には予約が必要です。法務局手続案内予約サービスから予約ができます。
⑤遺言の申請、保管証の受取
予約した日時に、必ず本人が行きましょう。持参する書類は、
・遺言書
・保管申請書
・住民票(取得3か月以内で本籍、筆頭者が記載のもの。またマイナンバーや住民票コードがないもの)
・顔写真付きの身分証明書
・手数料(遺言書1通につき3,900円。収入印紙で納付します。収入印紙は法務局で購入できます)
そして、自筆証書遺言としての外形的なチェックが通れば、そのまま自筆証書遺言を預かってもらえます。
4.自筆証書遺言のメリットとデメリット
前章まで、自筆証書遺言の作成方式や検認について、そして法務局での遺言書保管制度について解説してきました。
それでは自筆証書遺言について、どのようなメリットとデメリットがあるのか、ご紹介していきます。
メリット
- 簡単に作成でき、費用が掛からない
紙とペンがあれば、いつでも作成することができます。
紙も特に指定はないため、便箋でなくともメモ用紙、極端に言えば広告の裏に書いても問題ありません。
また自宅に保管している場合は、後で何度でも簡単に修正が可能です。
デメリット
- 要式不十分で無効となる場合がある
遺言書の書き方は民法で定められているため(※1章の必須要件)、その要式に当てはまっていない場合は「法律に反している」つまり、遺言内容が無効となる場合があるため、書き方には注意が必要です。
どのような場合に遺言が無効となるのか?
それは、曖昧な表現で記載した場合です。
例えば、不動産について「〇〇区の土地」といった表記はNGです。
これは「土地の住所、地番、家屋番号」まで正確に記載する必要があります。
「誰に」財産を渡すかという点についても、名前だけでなく生年月日や遺言者との続柄など、できる限り個人を特定できる情報を記載しておいた方がベターです。
仕事で拝見させていただく「自筆証書遺言書」で、要件をクリアしているものはやはり少ない印象です。
封がされてある遺言書を、家庭裁判所での検認の後見てみると、日付が入っておらず結局無効だったということもありました。(実際に銀行で無効と言われました)
ですので、当センターとしてはやはり公正証書で遺言を作成することをお勧めしています。
- 改ざん、隠蔽、破棄のリスクがある
貸金庫などがあれば、ある程度遺言書を守ることはできるかもしれません。
ですが、公正証書遺言のように厳重に保管されるわけではないため、遺言書の存在を知った誰かが、捨てたり隠したり、あるいは勝手に書き換えたりする危険性があります。
「それなら誰にも見つからないようなところに隠してしまおう」と考えるかもしれませんが、最終的に遺言書は相続の開始の際に「見つけてもらう」必要があります。
よって、保管場所を誰かに知られるのもリスク、まったく見つからないような場所に保管するのもリスクといえます。
- 検認手続きが必要になる
2章でも解説した通り、自筆証書遺言は相続発生後、相続人等により家庭裁判所で検認してもらう必要があります。
検認の手続きには亡くなった人(遺言者)の出生から死亡までのすべての戸籍や、相続人の現在戸籍等も必要になり、少なからず手間と時間がかかります。
5.まとめ
自筆証書遺言は、思い立ったときにすぐに作成することができます。
自身の大切な思いを、遺される人たちへしっかりと伝えましょう。
ただ作成が手軽な分、自筆証書遺言として成立するための必須要件や、手続きがあることも覚えておきましょう。
また自筆証書遺言は、死後何年か経って見つかったり、遺言書を書いていたはずなのに見つからなかったりするケースも実際にはあります。
そうならないためにも(自分の死後ちゃんと遺言書を見てもらうためにも)、遺言書の所在や内容について相続人となる人に共有することや、あるいは法務局の保管制度を使うことをお勧めします。
あるいは、自筆証書遺言ではなく、もうひとつの遺言書の種類「公正証書遺言」を選択することもひとつです。
公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が関与して作成するため、遺言の要式が無効になることはほとんどなく、実際の相続手続きもスムーズに行えることが多いです。
また検認は不要で、相続が発生したらすぐに公正証書遺言に基づいて手続きを進めることができます。
自筆証書遺言も公正証書遺言も、遺言をする人から遺された人たちへの大切なメッセージです。遺言の不備により「思っていたように相続されなかった」とならないためにも、専門家の力をうまく活用しましょう。
当センターは、公正証書遺言の作成についてサポートが可能です(または自筆証書遺言のご相談でも可能)。
お気軽にご相談ください。