お母様が亡くなられたお子様からのご相談です。
このご相談の文章には具体的な金額などは出てきておりませんが、より詳しくご説明をさせていただく為に、今回は下記のケースで一度考えてみたいと思います。
(実際にご相談いただいた内容とは少し違いますが、考えやすい数字にしております)
【前提】
- 相続開始日
→平成31年4月10日
- 相続税の申告期限(法定納期限)
→令和2年2月10日(相続開始日から10か月後)
- 相続人
→子である相談者1人(持ち家に居住)
- 相続財産
→不動産3,000万円(内訳:土地2,000万円、家屋1,000万円)と預金1,600万円
- 相続税額
→100万円(財産総額4,600万円-基礎控除3,600万円)×10%=100万円
1.相続税の申告をする必要があるかどうか
まずは相続税の申告をする必要があるかどうか確認してみましょう。
今回は基礎控除額が3,600万円(相続人1人)、相続財産が4,600万円ですので、相続財産が基礎控除額を超えており、相続税の申告をする必要があります。
なお、今回のケースでは適用はありませんが、「小規模宅地等の特例」や「配偶者に対する税額軽減」等の特例については、相続税の申告を行うことが適用の要件となっています。
たとえ、これらの特例を使用することによって相続税額が0円になったとしても、相続税の申告は必要になりますのでご注意ください。
期限についてはまだ1か月の猶予がありますので、なんとか期限に間に合うように、お母様の住所地を管轄する税務署やお近くの税理士等、専門家にご相談されることをお勧めします。
仮に相続財産が基礎控除額より少ない場合には相続税の申告をする必要はありません。
その場合でも税務署から「相続税についてのお尋ね」という封書が届くことがありますので、相続税がかからない旨を回答しておきましょう。
2.期限後申告をする場合のペナルティ
期限内に申告できなかった場合(期限後申告)のペナルティは2つあります。
2-1.無申告加算税
本来相続税の申告をしなければいけなかったのに、その申告をしていなかったことに対するペナルティです。
無申告加算税は、申告したタイミングに応じてその割合が異なります。
【申告期限後に自主的に申告した場合】
相続税の申告期限を過ぎてから自主的に申告した場合には、相続税の本税に対して5%の無申告加算税がかかります。
ただし、申告期限から1月以内に自主的に申告した場合には無申告加算税はかかりません。
今回のケースでは、100万円×5% = 50,000円の無申告加算税がかかることになります。
【申告期限後に税務調査により申告した場合】
相続税の申告期限を過ぎたあとに税務調査があり、その税務調査に伴って申告した場合には、自主的に申告した場合よりも多い15%の割合の無申告加算税がかかります。
ただし、調査の通知がされてから実際に調査に至るまでに申告をしたときは10%の割合となります。
なお、上記のいずれの場合も本税が50万円を超える場合には、その50万円を超える部分に対しては、さらに5%多い割合の20%(※)の割合の無申告加算税がかかります。
※税務調査の通知後、調査に至るまでに申告した場合であれば15%です。
では、今回のケースに当てはめて計算してみましょう。
→50万円×10%+50万円×15%=125,000円
の無申告加算税がかかります。
調査実施後に申告した場合
→50万円×15%+50万円×20%=175,000円
の無申告加算税がかかることになります。
2-2.延滞税
2つめは、相続税の納税が法定納期限までにできなかったことに対するペナルティです。
「延滞」という言葉からイメージできるかと思いますが、遅れたことに対する利息のような性質の税金ですね。
こちらは「法定納期限」から実際に税金を納めた日までの期間に応じて税金がかかります。
また、その割合は「納期限」から2か月以内の期間とそれ以降の期間で変わります。
納期限から2か月以内
「7.3%」 又は 「特例基準割合※+1%」のうち低い割合
納期限の翌日から2か月以降
「14.6%」又は「特例基準割合+7.3%」のうち低い割合
※特例基準割合とは、財務大臣が告示する一定の割合のことで、毎年告示されます。
(ちなみに令和2年1月1日から令和2年12月31日については1.6%となっています)
従いまして、それぞれの期間に適用される割合はそれぞれ下記のとおりです。
- 「納期限」から2カ月以内
2.6%(1.6%+1%の合計)<7.3%
→ 2.6%
- 「納期限」から2か月以降
8.9%(1.6%+7.3%の合計)<14.6%
→ 8.9%
なお、「法定納期限」とは、相続税法で定められている相続税の納付期限のことをいいます。
具体的には相続税の申告期限と同じで、相続開始日から10カ月後の日(今回のケースでは令和2年2月10日)です。
「納期限」は「具体的納期限」ともよばれ、相続税を納付すべき義務が確定した日のことをいいます。
少し難しいので以下の様にご理解頂いて差し支えありません。
期限内申告をした場合の「納期限」
「法定納期限」と同じ日
期限後申告をした場合の「納期限」
期限後申告書を提出した日
それでは、それぞれのケースに当てはめてみましょう。
- 期限内に申告したが、納付が遅れて3月15日となってしまった場合
100万円×2.6%×34日/365日=2,400円(100円未満切捨)
納期限から2か月以内(令和2年4月10日)の納付ですので、2.6%の割合で計算されます。
- 期限内に申告したが納付が遅れて6月20日となってしまった場合
(100万円×2.6%×60日/365日)+(100万円×8.9%×71日/365日)=21,500円(100円未満切捨)納期限から2か月(令和2年4月10日)までの期間について2.6%、2か月以降の期間について8.9%の割合で計算されます。
- 6月20日に期限後申告をして同じ日に納付をした場合
100万円×2.6%×131日/365日=9,300円(100円未満切捨)納期限から2か月以内(令和2年8月20日)の納付ですので2.6%の割合で計算されます。
- 6月20日に期限後申告をしたが納付が遅れて9月15日となってしまった場合
(100万円×2.6%×192日/365日)+(100万円×8.9%×26日/365日)=20,000円(100円未満切捨)納期限から2か月(令和2年8月20日)までの期間について2.6%、2か月以降の期間について8.9%の割合で計算されます。
具体的な日付や金額を挙げてもやはり複雑ですね…
とにかく、期限内の納付が難しい場合は早めに税務署や税理士に相談し、どれぐらいの金額になるかも計算してもらいましょう!
尚、計算された延滞税が1,000円に満たない場合は延滞税の納付はありません。
また、延滞税は本税に対してのみかかりますので、いわゆる複利計算は行いません。
(延滞税も含めた総額に対して計算していくのではなく、あくまでも本来の税金に対して計算していくということです)
ちなみに相続税の延納制度の適用を受けている場合には、延納されている期間について延滞税はかかりませんが、かわりに利子税という税金を納める必要がありますので、ご参考まで。
3.まとめ
申告期限までに相続税の申告をできなかったことに対するペナルティとして
(1)無申告加算税
(2)延滞税
の二つの税金がかかることになります。
大切な方がお亡くなりになられているのに、相続税の申告についてまで考えることは大変で、億劫かと思います。
そうかと言っていつまでも申告しないままでいると余計な税金がかかることもあります。
なお、期限後申告になってしまっても、配偶者に対する相続税額の軽減や小規模宅地の特例制度を使うことができるケースもあります。
決して放置することのないように早めに専門家に相談するようにしましょう。