相続人がいない場合でも手続きできる!孤独死の財産の行方と手続を解説

生涯独身で子どもなし、両親も既に他界している人が孤独死しました。その人は一人っ子だったので兄弟がおらず、相続する人が全くいません。この場合、誰か後片付けや手続きをするのですか?

相続人がいない場合に手続きをするのは「相続財産清算人」と呼ばれる人で、この人が適切に手続きを行い、その上でも財産が残るようであれば、その分については国庫に帰属することになる

  • 「相続人がいない」場合には様々なケースがある
  • 遺された財産は相続人以外でも受け取れる可能性がある
  • 相続財産清算人が遺産の管理や清算等を行う

 

孤独死が増えています。

突然倒れ、一人暮らしだったために結果的に孤独死になってしまったというケースももちろん考えられますが、普段から誰とも連絡を取ることがなかったために孤独死を迎えてしまうという方が増えています。

 

ではその孤独死した人に相続人がいない場合、その故人の財産はどうなるのでしょうか?

 

一言で「相続人がいない」と言っても様々な状況が考えられます。

 

例えば、

  • 家族構成的に相続人がいない場合(いわゆる天涯孤独)
  • 全員が相続放棄をしたことによって相続人がいない場合
  • 相続人が欠格・廃除になって相続人がいなくなった場合

などです。

 

これら状況によって手続きの内容が異なり、当然財産の行方も異なりますので、まずは状況を整理した上で、それぞれの流れについて解説します。

 

この記事を読んでいただければ、孤独死かどうかに関わらず、相続人がいない場合の手続きや財産を受け取る人がわかります。

記事をご覧いただいている方にも受け取る権利があるかもしれませんので、ぜひ最後までご覧ください。

 

1.相続人がいない場合に手続きするのは「相続財産清算人」

結論から先にお伝えしますと、相続人がいない場合に手続きをするのは「相続財産清算人」と呼ばれる人です。

 

よく勘違いされがちですが、相続人がいない→誰も手続きができない→遺った財産は全て国のものになる、というわけではありません

相続財産清算人が適切に手続きを行い、その上でも財産が残るようであれば、その分については国庫に帰属するという流れになります。

 

この相続財産清算人がどのようにして選任されるのか、どういった状況の場合に選任することができるのか、また選任された後はどのような流れで手続きが進んでいくのか、「相続人がいない場合」をパターン別に解説しながらお伝えします。

 

2.相続人がいない場合の3パターン

冒頭でもお伝えしましたが、孤独死をされた場合、またそれ以外の場合でも相続人が誰もいないという状況は十分に考えられます。

相続人がいないためにそれを解決する目的で家庭裁判所に申立てされた件数は、令和2年だけで5,818件と発表されています。

(参照:財産管理人選任事件の新受件数及び管理継続中の件数の調査結果(裁判所HP)

 

いま裁判所の話をしましたが、相続人がいない場合であっても、そもそも裁判所で手続きをしなければならない状況かどうかの判断がまず必要ですので、「相続人がいない」状況別にご説明します。

 

1.家族構成によって相続人がいない場合

2.相続人全員が相続放棄して相続人がいなくなった場合

3.相続人が欠格・廃除になって相続人がいなくなった場合

 

2-1.家族構成によって相続人がいない場合

まずは家族構成によって相続人がいない場合です。
誰が相続人になるかは民法で定められており、下記のイラストの順番になっています。

法定相続人の範囲と順位

 

言葉にするとわかりにくいかもしれませんが、まとめると

  • 配偶者:常に相続人
  • :いれば相続人(第1順位)
  • 両親・祖父母:子がいない又は子全員が相続放棄をした場合に相続人(第2順位)
  • 兄弟姉妹:第二順位の相続人である両親・祖父母が先に他界している又は両親・祖父母全員が相続放棄をした場合に相続人(第3順位)

になります。

この条件に該当する人が誰もいない場合は、家族構成的に相続人がいないという状況になります。

 

孤独死のケースで甥や姪の方からご相談をいただくことが多々ありますが、場合によっては相続人に該当し、故人の財産を相続できる可能性もあります。

配偶者や子だけが相続人というわけではありませんので、家族構成を改めて確認してみてください。

 

行方不明は「相続人がいない」ではない!

行方不明であったり音信不通の人を計算に含めず「相続人がいない」とお話されるケースがあります。

行方不明であっても何年も連絡を取っていなくても、戸籍上で子や兄弟姉妹などの関係であれば、その人は民法上の相続人に該当します

連絡が取れるかどうかという実際問題ではなく戸籍上の関係で判断しますので、間違えないようにしましょう。

 

養子縁組をした場合は「子」になる

血の繋がりがなかったとしても、養子縁組をした養親と養子は法律上の親子の関係になります。

「あの人は養子はいたけど子はいないはず」という状況であれば、その人は子として相続人になります。

 

2-2.相続人全員が相続放棄して相続人がいなくなった場合

孤独死をされた場合、財産がどれだけあるかわからない、借金があったらどうしよう…という不安から、相続放棄をされることがよくあります。

そうすると、その相続放棄をした人は「最初から相続人ではなかった」という状況になり、相続権は順に移っていきます。
(子→両親・祖父母→兄弟姉妹の順)

 

このとき、最後の相続順位である兄弟姉妹も相続放棄をすると「相続人がいない」という状況になってしまいます

孤独死のケースでは万が一の借金などを心配して相続人全員が相続放棄をされることも多いので、「相続人がいない」状況になりやすい傾向にあります。

 

2-3.相続人が欠格・廃除になって相続人がいなくなった場合

少し難しい言葉ですが、要は相続人としての権利を失うことです。

 

欠格は相続人に重大な非行があった場合に当然に相続人としての権利をはく奪されることですが、廃除は家庭裁判所に申し立てをしたり遺言書に記載する必要があり、決して簡単に認めてもらえるわけではありません。

ただ、いずれも相続人としての権利を失うことに変わりありませんので、その結果として「相続人がいない」という状況になる可能性があります。

 

欠格・廃除は代襲する

少し難しい話ですが、例えば祖父が亡くなった時、その子である父がまだ存命であれば相続人は父ですが、父が祖父よりも先に他界していた場合、父の子(祖父の孫)が相続人になります。

これを代襲相続と言いますが、欠格・廃除によって父が相続する権利を失った場合、その相続権は孫に代襲されることになります

欠格・廃除に該当するような行為をしたにも関わらずその子に相続権が生じるのは理解し難いところがありますが、現在の法律ではそのようになっています。

 

3.相続人がいない場合、残された財産は誰に?

「相続人がいない場合」に該当することがわかったとき、その場合は遺された財産は誰が引継ぐのでしょうか?

内縁関係にあった人?
お金を貸していた人は返してもらえないまま?

ここでは遺った財産を受け取れる優先順位の順でご説明します。

 

1.遺言書による受遺者・支払ってもらうお金がある債権者

2.故人と特別の縁があった人(特別縁故者)

3.国庫に帰属する

 

3-1.遺言書による受遺者・支払ってもらうお金がある債権者

亡くなった人に遺言書があり、その中で財産を引き継ぐ人が記載されていた場合はその人が受け取ります。

遺言書の内容にもよりますが、あくまでも記載された財産に関してしか受け取ることができないため、例えば「○○銀行の預金を相続させる」と書いていれば、その銀行の預金しか受け取ることはできません。

 

また、お金を請求する権利を持っている人のことを債権者と言いますが、債権者についてはその根拠を明確にすることで、その債権の範囲内で故人の財産から受け取ることができます。

例えばお金を貸していた人、ローン会社、未払いの賃料があった場合の家主、税金の未払いがあった場合の役所などが債権者に該当します。

 

どちらも勝手に故人の財産から引き出したりすることはできず、次の3章でご説明します「相続財産清算人」の手続きを経て受け取ることになります。

 

3-2.故人と特別の縁があった人(特別縁故者)

特別縁故者と書いて「とくべつえんこしゃ」と読みます。

文字通り亡くなった人と特別な縁故があった人のことですが、何をもって特別な縁故と認めるかは明確な基準はありません。
(申立ての要件はありますが、該当するかどうかの最終的な判断は家庭裁判所になります)

裁判所によって該当すると判断された場合にのみ、認められた金額の範囲で受け取ることができます。

 

孤独死という状況で考えると、なかなか該当する人がいない可能性が高そうです。

 

3-3.国庫に帰属する

遺言書によって受け取る人が決まっていない(又は遺言書がない)、債権者もいない、特別縁故者もいない状況で財産が残っていた場合、または該当者に対して適切な支払いをした後でもなお財産が残っていた場合、その財産については国庫に帰属します。

「相続人がいない場合は国のものになる」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、この状態がまさにそれになります。

 

相続人がいない場合にすぐに国のものになるわけではなく、受遺者、債権者、特別縁故者に支払いをした上で残った財産があれば国のものになるという点を覚えておきましょう。

 

4.亡くなった人の財産を管理するのは相続財産清算人

1章でお話しました相続財産清算人について、ここでは詳しくご説明します。

  • 誰が相続財産清算人になるのか
  • どうやって相続財産清算人が選ばれるのか
  • 選ばれた後はどういった流れで手続きが進んでいくのか

など解説いたします。

 

4-1.家庭裁判所によって相続財産清算人が選任される

誰でも相続財産清算人になれるわけではなく、家庭裁判所が選任します。

つまり、誰かが家庭裁判所に申立てをすることによって、選ばれることになります。

 

では誰が申立てをすることができるかというと、

  • 特定受遺者(特定の財産を遺言書によって受け取ることができる人)
  • 債権者(ローン会社、家主、役所など)
  • 特別縁故者(内縁のパートナーや介護に尽力した人など)

といった故人との関係があった人のみになります。

 

相続財産清算人には弁護士が選任されることが多く、当然その弁護士も職務として相続財産清算人を担当しますので、そこには報酬が発生することになります。

 

亡くなった人に明らかに財産があればそこから支払いができるので問題ありませんが、仮に財産がわずかであったりマイナスの可能性がある場合はその報酬を予め確保しておくため、予納金という形で申立てをした人が納めなければなりません

この金額は申立ての内容にもよりますが、10万円~100万円程度が多いようです。

 

申立てをすることで余程の金額を回収できる可能性があるならよいかもしれませんが、少額の債権者にとってはあまりメリットがないかもしれませんね。

 

4-2.まずは受遺者・債権者への支払い

「まずは」と書きましたが、そもそも相続人がいる可能性もありますので、相続財産清算人が選任されたことが官報で公告されます。

この時点でもし相続人がいるなら名乗り出ることになりますが、それがないことが確認できた時点(公告から2か月後)で、次は債権者や受遺者がいれば名乗り出るように公告されます。

 

遺言書によって財産を受け取ることになっている人、お金を貸している人、未払いの家賃がある家主さんなどはこのタイミングで支払いを受けることになります。

そして、支払ったことによって故人の財産がなくなってしまうと、そこで相続財産清算人の手続きは終了となります。

まだ財産が残っているようであれば次へ進みます。

 

4-3.改めて相続人不存在の確定

ここでもう一度相続人がいないことを確認するため、官報で公告されます。

 

先ほどの受遺者や債権者への支払いの根拠は明確ですので比較的短期間で手続きが進みますが、ここから先は判断が難しいところも出てくるため、より長い期間(6か月以上)を設定して公告し、再度相続人がいなことを確認します。

それでもやはり相続人が名乗り出ることがなければ、次へ進みます。

 

4-4.特別縁故者がいれば財産の分与

3-2章でお伝えしました特別縁故者の順番です。

内縁の人、最後まで介護に努めた人にとってはやっと順番が回ってきます。

 

相続人がいないことが確定してから3か月以内に申立てをして、家庭裁判所によって「認められた場合に限り」財産を受け取ることができます

 

また、「私は特別縁故者です」といって誰もが申立てすると事務処理や判断が大変になりますので、申立てができる人は下記に限られています。

  1. 内縁のパートナー、事実上の養子など、亡くなった人と同一生計にあった人(一つの家計で一緒に生活していた関係)
  2. 亡くなった人の介護、看病などに努めた人
  3. 1と2ではないが、それに準じて特別の縁故があった人

 

特別縁故者として認められれば裁判所によって決定された金額を受け取ることが可能です。

また、その上でまだ財産が残っているようであれば、いよいよ国庫に帰属することになります。

 

5.相続人がいないと分かっている場合に事前にできる対策

相続が開始し、相続人がいない場合の手続きについてお伝えしてきましたが、そもそも「まだ相続が開始していない」状況であれば、こういった複雑な手続きにならないように事前にできる対策があります。

それは、遺言書を作成することです。

 

孤独死のケースではなかなか遺言書を作成するということ自体が難しいかもしれませんが、もし事前に話ができるのであれば、アドバイスしてあげたほうが良いでしょう。
(最終的には本人の意思次第ですが)

 

5-1.遺言書を作成しておこう

遺言書を作成しておくことで、今までお伝えしてきました相続財産清算人を選任しなくても良い「かもしれません」

「かもしれない」とお伝えしたのにはもちろん理由がありまして、遺言書の書き方や内容によって異なるからです。

 

遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言がありますが、方式についてはどちらでも問題ありません。

それよりも中身が重要です。

 

少し専門的な内容になりますが、

  • 全ての財産に対して割合を指定して渡すこと:包括遺贈
  • 特定の財産を渡すこと:特定遺贈

と言います。

 

包括遺贈で亡くなった人の財産の全てを受け取ることになっていた場合、財産が余るということがありません。

そのため、相続財産清算人の申立ても不要です。

ただし、「全て」の財産を受け取るということは預貯金や不動産などのプラスの財産以外にも借金やローンも全て引き継ぐことになりますので、その点は注意が必要です。

 

特定遺贈の場合、その特定された財産に関しては受け取る人がいますが、それ以外の財産は受け取る人がいませんので、相続財産清算人の選任が必要になります。

面倒なことになるなら包括遺贈の方が…と思われるかもしれませんが、特定遺贈の場合はその特定された財産のみを受け取ることになるので、借金やローンがあった場合でも引き継ぐ必要がありません
(※その受け取る財産に紐づくローンなどは引継ぐことになります)

 

どちらも一長一短ですので、悩まれた場合は専門家に相談されることをお勧めします。

 

6.相続人がいない場合によくある2つの質問

相続人がいない場合の手続きや財産の受け取りについて解説してきましたが、より身近なところでよくある質問を2つ取り上げ、解説します。

 

1.故人の荷物は処分してもいい?

2.故人が住んでいた賃貸物件は解約してもいい?

 

6-1.故人の荷物は処分してもいい?

処分してはいけません

相続人がいない場合、その財産を処分するのは相続財産清算人の仕事になります。
(厳密には相続財産清算人も処分行為はできませんが、特別な許可を裁判所からもらうことでできるようになります)

たとえ身内、関係者であっても勝手に処分する行為はNGですのでご注意ください。

 

賃貸物件の貸主や管理会社から早急に荷物を出すように迫られて困ってご相談されるケースも多いです。

相続人でない場合はその旨を、そして自分には処分する権限がないことを伝えましょう。

 

6-2.故人が住んでいた賃貸物件は解約してもいい?

解約してはいけません

こちらも相続人がいない場合、賃貸借契約を解約するのは相続財産清算人の仕事になります。
(荷物の処分と同じく特別な許可が必要です)

解約をしないことで余計な賃料が未払いのまま積み重なっていくことになりますが、相続人がいない場合、その未払いの賃料も誰も支払い義務はありませんので、家主さんにとっては大変かもしれませんが、相続財産清算人が選任されるまでそのままにしておきましょう。
(家主さんは未払い賃料の債権者として相続財産清算人の申し立てができます)

 

連帯保証になっている場合は賃料の支払い義務あり!

入居時の賃貸借契約書に連帯保証人としてサインした場合、連帯保証人は契約者と同等の責任を負うことになりますので、未払いの賃料についての支払い義務を逃れることはできません

未払いの賃料が増えれば、当然その分についても支払い義務があります。

 

7.まとめ

相続人がいない場合の手続きや故人の財産の行方について解説してきました。

 

相続人がいないという状況は、言い換えるなら

  • 誰も財産を受け取る権利がない
  • 誰も支払いの請求があっても払う必要がない

ということになります。

 

ただし、遺言書による受遺者、債権者、特別縁故者であれば、相続財産清算人を選任することで財産を受け取ったり支払いを受けることができる可能性があります

実際に受け取るまでには1年を超える場合もありますが、相続人がいない=故人の財産は国のものというわけではありませんので、ご自身の立場に応じて適切な手続きを検討していきましょう。

 

孤独死だからといって必ず相続人がいないかというと、そうではありません。

密に連絡を取っていなかった、突然倒れてしまった結果が孤独死だったというケースも多いです。

 

孤独死だから相続人がいないというわけではありませんので、まずは戸籍上の相続人調査をして、本当に「相続人がいない」という状況かどうかの確認から始めましょう

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この記事を執筆した専門家

この記事を執筆した専門家 嶋田 裕志
  • 行政書士
  • 宅地建物取引士

嶋田 裕志

Yuji Shimada

日本行政書士会連合会11260290号
大阪府行政書士会 第6071号
宅地建物取引士 第090938号
Twitter ( )

相続・遺言専門の行政書士として10年を超える実績。年間の相談対応件数は2,000件超え、行政書士の範囲だけでなく、相続税や不動産など相続に関する幅広い知識を持つ。全国各地を飛び回り、孤独死されたご自宅内での遺留品の捜索や不動産の売却のサポートまで対応。新聞、雑誌、WEBメディアなどの取材実績も多数。G1行政書士法人の代表。

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