不動産のみ相続したときに、どれだけの相続税がかかるのか?についてのご相談です。
不動産だけを相続し、その代わりにお金は相続しない、そういったケースはよくあると思います。
今回は
- 相続人は、お亡くなりになられたお父様のお子様2名である
- 相続財産は預金800万円と戸建て不動産(数百万円)のみである
- ご相談者様が相続される財産は不動産のみである
というところがポイントかと思います。
それでは、詳しく解説させていただきますね。
1.相続税の基礎控除
結論から申しますと、今回のケースでは、相続税を支払う必要は・・・
ございません!
ご安心くださいね^^
「相続する=相続税を支払う」というなんとなくのイメージがあるかもしれませんが、実はそうではないんです。
相続した人全員が相続税を支払うのかというと、それはやはり酷(コク)なケースもありますよね。
そこで、まず、相続税の計算には「基礎控除(きそこうじょ)」という、遺産総額から一定金額を控除できる(除外できる)範囲が定められています。
具体的に「基礎控除」とは、下記によって計算された金額をいいます。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
少し分解してご説明致しますね。
まず、3,000万円についてはその通り3,000万円です。
これはベースになる数字ですので、どのような相続であっても変化することはありません。
ポイントは次の(600万円×法定相続人の数)です。
この「法定相続人」ですが、どのような人を指すかわかりますでしょうか?
文字通り考えると「法」で「定」められた「相続人」ですので、「相続します」「相続しません」のどちらの意思表示をするかに関わらず、法律通りに考えるとあなたに相続権があるんですよ〜という人が「法定相続人」です。
ですので、今回のケースで考えると、ご相談者様と弟様のお二人が「法定相続人」ということになります。
仮に財産のすべてを弟様が相続される場合であっても、あくまでも「法定相続人」は2名ということになります。
放棄が認められれば弟様は相続人としての地位を失いますので、相続するのはご相談者様お一人ということになります。
このとき、「法定相続人」は何名として計算しましょうか?
相続放棄をした弟様も含めて2名でしょうか?
それとも、弟様は相続人としての地位を失ったのでカウントせず、ご相談者様お一人でしょうか?
答えは・・・2名です!
相続放棄をした場合でも、基礎控除額を計算する上ではその人も法定相続人の一人として計算に含めます。
専門家でも一瞬困惑するところだったりしますので、ぜひご注意くださいね。
(今回のご相談とは全く関係ありません、すいません汗)
ではでは、本題に戻りまして、今回のご相談に照らして合わせて基礎控除額を計算してみますと、
3,000万円+(600万円×2人)
にて求めることができますので、
4,200万円
ということになります。
ここまでよろしいでしょうか?
この基礎控除額に対し、今回の相続財産は
- 預金の800万円
- おそらく数百万円の価値であろう不動産
とのことですので、相続財産の総額が基礎控除(4,200万円)よりも少ない金額であるため、
相続税の納税をする必要はない
ということになります。
また、この場合は相続税の申告につきましても行う必要はありませんので、税務署には何も書類を提出する必要はないということになります。
(※相続税の申告に限って不要ということですので、別途準確定申告などが必要な場合もあります)
2.相続税の納税方法
今回のご相談では「相続税の申告義務なし」ということになりましたが、仮に不動産のみを相続して相続税がかかることになってしまった場合は、その相続税をどの様にして支払うかを考えてみましょう。
(相続するものが不動産だけで、納税資金が確保できない場合を想定しております)
相続税は、納期限(死亡日から10ヶ月以内)までに「金銭」で「一括納付」が原則となります。
しかし、相続した財産が不動産だけですと、相続税を支払う「金銭」がありません。
そのような場合の納税方法として、4つご紹介致します。
2-1.延納
次の要件を満たす事により、納付が困難な金額の範囲内で分割払いにより納税する方法です。
「納付が困難な金額の範囲内」という点が少しわかりにくいかもしれませんが、要は、全額について分割を認めてあげますよーではなくて、一部でも支払うことが可能であればそれは先に支払い、その上でまだ支払えていない残金について分割払いを認めますよー、ということです。
では、延納のための要件はというと、
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭で納付することが困難であること
- 延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること(一定の場合は不要です)
- 相続税の納期限までに、延納申請書と担保提供関係書類を税務署長に提出すること
です。
大体イメージはしていただけますでしょうか?
②と③がキーポイントになりそうですね。
何をもって困難であることを証明するのか、どのようなものを担保として提供すればよいのか、このあたりは専門の税理士さんにご相談されることをおすすめ致します。
延納をするつもりでいても、結果的に認められなかった場合は現金一括納付になってしまいますので、慎重な検討や判断が必要です。
2-2.物納
延納でも納税が困難とする事由がある場合に、相続した不動産そのものによって納税する方法です。
お金が無理ならモノ、というイメージですね。
ただし、物納をする場合には一定の要件や物納財産の優先順位がありますので、いらない不動産(例えば山林や農地など)を無理やり渡してしまうようなことはできません。
金銭の代わりとしてモノ(不動産)を渡すわけですので、原則はやはり換価性の高いモノ(不動産)から渡すことになります。
実際の事例として物納の申請に携わったことのある税理士さんもそれほど多くないと思いますので、そういった方法をご検討される場合は経験があったり詳しい税理士さんを探された方が良いでしょう。
2-3.売却
遺産分割協議を終わらせ、不動産の相続登記(名義変更)を済ませた上で、相続税の納付期限までにその不動産を売却して納税する方法です。
そもそもその不動産が売れるようなものなのかどうかが一番のポイントになりますが、もし売却することができるのであれば、その売却したお金で納付を済ませるということです。
ただ、古い家であれば中の荷物を処分し、前もって解体をしないと売れないこともありますので、相続税以上に遺品整理の費用や解体費用がかかってしまうこともあります。
地域や物件による差が非常に大きいので、まずはその不動産が売れるものなのかどうか、一度不動産業者に相談されることをおすすめ致します。
また、不動産を売却することによって譲渡益が発生した場合は譲渡所得税の申告・納税が別途必要になりますので、そのあたりも含めてしっかり検討しておかないと、予定していた相続税とは別に譲渡所得税を収めることになるかもしれません。
どのように売るのがベストなのか、そもそも売却できるのかどうか、相続不動産の売却に詳しいところにまずは相談してみましょう。
(どの不動産業者、税理士でもそのあたりも詳しいわけではありませんので、しっかり検討することが大切です)
2-4.借入
金融機関等から借入を行い、納税する方法です。
できれば避けたい方法かと思いますが…
分割して払っていくという意味では「延納」と同じかもしれませんが、借入は納税資金を借りて一括納付するわけですので、その後の分割払いをどこに対してしていくのかという点で異なります。
また、「延納」は納税資金がない場合の救済措置的なものですが、「借入」は金融機関等がお金を貸してくれるかどうかだけの判断ですので、仮に納税資金が手元にあったとしても、借り入れをして納税することも可能です。
払えるのに分割にする、払えるのにモノ(不動産)で納税しようとする、これはダメだということです。
また、売却や借入は自分の意思だけでなく相手方のあることですので、相続が発生した後に慌てて行うよりも、相続が発生する前から計画を立て、場合によっては先に納税資金の準備をしておくことが大切です。
3.まとめ
それでは、今回のご相談のまとめです。
- 基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算できる
- 「基礎控除 > 遺産総額」の場合、申告納税の必要なし
- 「基礎控除 < 遺産総額」の場合、申告納税の必要あり
- 相続税の納税が困難となりそうな場合には、事前に納税資金の準備について「延納」「物納」「売却」「借入」等の方法も含めて検討する
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